火魅子伝〜恋解〜二次創作物作品

--がんばれ九峪君 〜受難編〜--


作・マサ様


 まだだ……まだ俺は戦える。


まだ、俺の体は限界じゃない。まだ、手足の感覚はある。負けたわけじゃない。


そうだ、逃げる為の言い訳なんていらない。なぜなら、逃げないからだ。



立ち上がりさえすればいい。
そこから一歩踏み出せばいい。
そこから全てが始まる。







この俺のサ−ガが!!








たとえ俺の前に闇が広がろうとも、この闇を支配しているのは俺だ。










だから――――――







―――――――俺だけしかいない―――――――









 向こう側さえ見通せないほど闇が、たとえ広大で無限に広がろうとも、その先はきっとある。


なぜなら、俺の可能性はこの闇よりも遥かに大きいからだ!!


 限界を決めるのも、壁を作るのも自分なら、俺はこの闇の世界では何も作らない。


だから、闇の中に、敵は居ない。


立ちふさがる奴もいない。そして、行く手を遮る壁さえない!!


そう、俺は、俺は――――






支配者だ。







だから……だから……だから……

















「カカシなんぞに、


 負けられるかぁぁぁぁぁっ!」















――――――――九峪は意識を取り戻した。















がんばれ九峪君 〜受難編〜


 邦見城の中の鍛錬場で、九峪は剣の稽古をしている所である。
剣の修行の指導をしているのは、伊万里と清瑞の二人だった。
しかし今、指導しているのは伊万里でも清瑞でもない………珠洲である。
なぜ、そんな事になったのかというと、時刻は数時間前に遡る。



 最近九峪は、復興軍内で自分の武力を馬鹿にしている連中を見返す必要があると思い始めていた。
理由は、珠洲や忌瀬などから流される根も葉もない(とも言い切れない)噂によって、悪い噂が復興軍内に広まっていた。それにより、自分の威信というものが(あってないようなものだが)落ち込んでいることに気がついた。
 悲しいかな、噂とはいい噂はなかなか広まらず、悪い噂はそれはウイルスが感染するが如く素晴らしい勢いで広まる。
九峪のイメ−ジに対する噂も同様である。

 これはまずいと思った九峪は、何とか悪いイメ−ジを払拭させる必要があると考えたわけである。

 最初、九峪は紅玉に指導を頼もうかと思っていたが、指導が厳しそうな予感がした為、優しく教えてくれそうな伊万里に頼む事にした。
志野に頼むという選択肢もあったのだが、もし志野に頼むということになれば、珠洲にもばれてしまうことになる。
 そうなると、秘密裏に訓練するという目的が達成出来ないと思った九峪は、志野に頼むと言う選択肢を捨てたのだった。
「とりあえず、あんまり人に見られるのが恥かしいんだよ。それに、俺の事を馬鹿にしている連中を見返してやりたいんだ。頼むよ伊万里。頼れるのは君だけだ」
こう言われて、伊万里の性格上断れるはずも無く、また九峪に好感を持っていた彼女は二つ返事で引き受けた。


もちろん、上乃には内緒にしてある。




 こうして、九峪と伊万里の秘密の特訓が始まるはずであったのだが、護衛の清瑞に隠しとおせるわけも無く、
「訓練だと!? ほう、ようやく貴様も自分の身を守る意識が芽生えたのだな。しかし、付け焼刃で自信を持ってもらって何かあっては、護衛役の私が困る!! やるなら、私が納得できるくらいの強さを手に入れろ。私も一緒に貴様を鍛えてやるから、ありがたく思え」
と、半ば強引に九峪の指導役を買って出た結果、伊万里と清瑞の二人の指導の元に、剣の訓練を行う事になった。

 最初、訓練ということで伊万里と手合いを行い、伊万里と清瑞の予想外の強さを九峪は見せた。伊万里から一本取ったのである。
「お−、俺ってもしかして天才?」
「早い剣筋ですね。ちょっと油断していました」
それが、伊万里の率直な感想だった。しかし、清瑞はそんな九峪に厳しい指摘をする。
「確かに早い。踏み込みが半歩深い……が、それでは身を守ることは出来ないぞ」
この意見には、伊万里も同じだった。

 ここで少し説明しておく。
 九峪は剣道家ではないが、高校の授業で剣道をやったことがある程度の経験者である。従来の負けず嫌いな九峪は、同じクラスの剣道部の部員に負けて、一本取るまで短い期間であったが修行を行い、見事に一本取ったという経緯がある。

 もちろん、剣道と剣術は全然違う。剣道は実践向きではないのに比べ、剣術は実践を想定している。が、ここで注意するべき点は、仕合いでは剣道家と剣術家では剣道家のほうが強いのである。死合いでは剣術家のほうが分がある。
 この両者の違いは、剣筋の速さである。純粋にこの違いは先に一本取る事を追求した剣道と、先に壊す事を追求している剣術の差である。その為、純粋な剣道家は簀巻を斬る事が出来ない。なぜなら、剣道家は剣で打つ訓練はしても、斬る訓練はまた別で行わなければならないからである。
 よって、九峪が伊万里から一本を先に取れたとしても、鎧を着ている兵士には、何ら傷を与える事は出来ないのだった。

 そういう風な説明を、伊万里は九峪にすると、九峪はがっくりと肩を落す。いっそ棒術を学んだ方が、早く強くなれると清瑞にも指摘される。
 しかし伊万里はニッコリと微笑んでいった。
「そんなに気を落さないでください。まずは、引き手を覚えましょう」
「引き手?」
「はい。九峪様はまず、型から覚えて切り抜く事を学んでください。その他の基本的な運足や見切りは一応出来ているようですし」
「うんそ……? なんかわかんね−けど、わかった。それでどうすればいい?」
九峪が伊万里に尋ねる。
(そうだな……九峪様の打つ時の癖を抜かなくてはな……)
伊万里がそんな事を考えていると、清瑞が簀巻を持って来た。
「これに打ち込それで、まずはその癖を直せ」
「ああ、それはいい考えだ」
清瑞の持ってきた簀巻と案に、伊万里も賛成する。
「さぁ、素振りからだ。まずは50回を3回行うぞ」
「げ〜、まじかよ」
九峪は嫌そうな表情を浮かべる。
「なんだ、もう諦めるのか」
「誰が諦めるって言った?やってやるさ」
「とりあえず耳栓を渡しておく」
「なんでだ?」
「こうした方が、集中出来るだろう。お前は特に集中力がないからな」
「うるへぇ」
こうして、九峪は清瑞に言われるがままに、素振りを始めたのだった。





 こんな風にして九峪が剣の稽古をしているのを、直感的に嗅ぎつける人物が耶麻台国の中には数名いる。
 その内、一人が目ざとく九峪の訓練風景を目撃した。その人物とは、藤那である。
「ほう、これは良い酒のつまみだ」
そう思った藤那は、早速自分の部屋に戻って酒を用意し、訓練道場に足を運んで言った。
「面白そうな事をしているじゃないか。悪いが見物させてもらうぞ」
「……」
「……ふむ。聞こえておらんようだな。しかし、私は断りをちゃんと入れたからな。さぁ、存分に訓練するがいい」

 こうして、藤那は道場の片隅に腰を下ろし、酒を飲みながら九峪の訓練風景を見物する事となる。



 そして訓練を再開した藤那のいる場所に、只深と閑谷がやってきた。藤那は、閑谷に手を振りながら言った。
「お〜閑谷。酒は手に入ったか?」
「そ、それがね……藤那……」
閑谷は遠慮がちに、藤那と只深を交互に見る。
「手に入ったやおまへん。藤那はん、一体どれだけ酒を飲むつもりや!? いい加減、お酒の在庫もなくなりますわ」
「ん〜、そう言ってもな。私一人酒を飲みつづけた所で、たかが知れているだろう」
「そういう問題やおまへん」
「まぁまぁ、そう硬い事言わずに一緒に飲もうではないか。良い酒のつまみもあることだし」
そう言って、藤那は九峪を顎でさす。只深はその方向を向き、初めて九峪の存在に気がついた。
「九峪はんやおまへんか。一体、なにしてますの?」
「ん〜、剣の稽古だと」
「はぁ〜稽古でっか。感心しますわ〜」
「まぁ、そういう事だ。アレを見ながら、一杯やらんか?」
「………まぁ、それもそうですな」
簡単に只深は藤那の姦計(?)に堕ちてしまう。
「それじゃうちは、ちょっとおつまみでも探して持ってきますわ」
「おお、よろしくな」

 こうして、しばし只深はその場から離れる事となる。

 この時、ちょうど伊万里と清瑞は、九峪の訓練の役に立ちそうなものを探しに、一般兵士の訓練場に居た為、藤那と只深のやり取りはおろか、見物している事さえ未だ知らなかった。



 只深が訓練場に戻ってきた時、只深と一緒に訓練場にやってきた者達が居た。志野と珠洲・織部である。
 三強にして喋る機関銃の一人である只深が、黙ってツマミと酒を取りにいくはずもなく、すれ違う人に九峪の事を言って回った。


それにより、九峪の秘密特訓が見事に水泡に帰した瞬間だった。



「な、何で皆さんがここに……」
清瑞が訓練場に戻ってきた時の第一声がそれだった。
 すでに訓練場の中は、宴会場と化している。それと、伊万里はまだ戻ってきていない。
 九峪は耳栓をしているので聞こえない。清瑞は恐ろしくて、耳栓をしている九峪に近づけないでいる。そして九峪は、黙々と簀巻を叩きつづけている……と思ったら、ぴたりとその手が止まり、耳栓を外す。そして、ゆっくりと振り向いた。

「………」

『………』


静寂が、その場を支配する。

「………」

『………』


 九峪は、目だけであたりを見回し、状況を判断しようとする。そしてその視線が、清瑞に止まった。
「(一体どういう事だ!?)」
「(いや、私にはわからない)」
「(何でこいつらがここにいるんだ!?)」
「(いや、私にはわからない)」
「(どうしてこいつらは宴会をしているんだ!?)」
「(いや、私にはわからない)」
お互い視線だけで会話している。普段は成立しないが、時と場合と雰囲気によって、お互いの意思は視線だけで疎通できてしまうほどの奇跡を生んでいるのだろう。
「どうした九峪。もうおしまいか?」
始めに沈黙を破ったのは、藤那だった。
「どうした? 疲れて声が出ないのか?」
「……でだ……」
「はぁ?」

「何で、お前らがここにいるんだ−!!」


九峪は、疲れを感じさせないくらい力いっぱい叫ぶ。それに対し、藤那は平然と答えた。
「何でといわれてもな。ちゃんと断ったではないか。『見物するぞ』とな」
「そんな事聞いてないぞ!!」
「そんな事は知らん。聞いてない方が悪いんだ」
九峪の言葉に、藤那は平然と答える。
「うがぁぁぁ。俺は見世物じゃねぇ−!!」
「まぁまぁ九峪様。落ち着いて下さい。それより、何故こんな事を?」
志野は、怒り狂う九峪をなだめる為に、わざと話題をそらす。
「何故って……そりゃ……その……」
九峪は、悪い噂を払拭させる為とは、恥かしくて言えずにいた。言ってしまうと、なんとなくかっこ悪いと思ったからである。
「話してみてくださいな。私達でよければ力になりますから、、、珠洲もそう思うでしょ」
「えっ? 何でこんな助平のために……」
「珠洲、、、、、、も・ち・ろ・ん、 手伝ってくれるわよね」
志野はニッコリと微笑む。男なら、思わずにやけてしまいそうな笑顔だが、目は笑っていない。
「も、、、もちろん、手伝う……手伝う」
志野の妙な迫力に押され、珠洲はたじたじになりながらも了承する。
「そういうわけで、いつでもお手伝いしますわ」
「あ、ああ、、、そりゃ、助かるよ……」
九峪としては、志野の申し出を、無下にすることが出来なかった。



 結局、志野にはぐらかされたと言うのと、みんなにばれてしまったと言う事で秘密特訓の意味がなくなってしまった九峪は、戻ってきた伊万里達数人の指導者の訓練表に従って、訓練する事で落ち着いた。
 そして、どうせ訓練するなら効果的な訓練であるべきと言う珠洲の最もな意見で、彼女の練習用のカカシでの打ち込みをする事となった。






見た目はカカシである。






動くのである。





動かすのは、珠洲である。




 しかも、このカカシの顔には『九峪』とデカデカと書かれた竹管がつけられており、同じようにその体には、でかでかと『助平』と書かれた竹管がぶら下がっている。


 自分が馬鹿にされている気がした九峪は激怒した。


「なんなんだ、これはぁ!!」


「カカシ」

珠洲は、涼しい顔で答える。
「カカシなのは分かる。何で顔に『九峪』と書かれてあって、胸には『助平』と書いてあるのかって聞いているんだ」
「……おかしいところは……ない」

「おかしいとこだらけじゃ−!!」


九峪は叫ぶ。
「ちょ、ちょっと珠洲…」
珠洲の言い方に、さすがに志野が口をはさんでくる。
「ちゃんと説明しなきゃわからないわよ」
「せ、説明って……なんで外しなさいとは言わないんだ?」
志野の、カカシ自体に問題と違和感を感じていない物言いに、九峪が疑問を投げかける。
「えっ? あ、え〜と、その、あれですよあれ」
志野は口篭もりながら言う。
「あれ?」
「ええ、あれです」
志野自身、あれがなんなのか分かっていない。しかし、九峪の機嫌を損なわないような言葉が見つからずにいた。


 さすがにこのままでは埒があかないと思った九峪は、珠洲に向き直って言った。
「あ〜もうわからん。とにかく、とっとと外せよ」
九峪の言葉に、珠洲は少し間を置いて言った。
「……九峪様……何もわかってない」
「何がわかってないんだ?」
その言葉に珠洲は、哀れみの目を向ける。その眼は、何でわからないんだろうと言う人を馬鹿にしたものだった。いつも珠洲は九峪を馬鹿にした目をしているわけなのだが。
「うわ、俺って馬鹿にされてない? この餓鬼に……」
「餓鬼じゃない。珠洲だもん」
「ま、まぁまぁ、珠洲も九峪様も落ち着いて。それより、珠洲。九峪様は何をわかってないの?」
志野は、はらはらしながら九峪と珠洲の間に入って割る。しかし、珠洲は答えずに横を向いたままだ。
「私が変わりに答えてやろう」
ここで口を出してきたのは、藤那であった。
「簡単なことだ。戦いとは、常に敵ではなく己との戦いだ。だからこそ、己の分身を模して、顔に『九峪』と書いた竹管をつけているんだ」
「ああ、なるほど」
藤那の説明に、志野は納得する。九峪はそれには納得した。

 しかし、納得出来ない部分もある。九峪は、その納得出来ない部分を聞いた。
「だったらなそれで、胸に『助平』なんて書いあるんだよ」
「それは簡単。助平心を鍛え直せという、願いでも込めてるんだろ」

「なんでそうなる−!!」


 九峪は、まるで自分が助平な人間だと言われた気がして激怒するが、そこにいた面々の誰もそのことに対しては、あえて何も言わい。




 妙な沈黙が流れる。






 その沈黙と言う現実と、周りの人間の本音に、九峪は打ちひしがれ、消え去りそうな声で珠洲に言った。

「…………これでいいです。はじめてください…………」

「………よろしい……」





 こうして、カカシと九峪の特訓が始まった。しかし、叩いても怯まないカカシ相手に、九峪はどんどん体に打撲を負っていく。なぜなら、カカシも木刀を持って九峪に打ち付けているからだ。しかも、カカシは防御などしない。最初、あまりに理不尽な戦い方に九峪は抗議したが、避けられない九峪が悪いと言う事で話が通ってしまったのだ。

 そして、何度か打ち合いした挙句、ついに九峪は倒れて意識を失いかけたと言う経緯である。







 珠洲が九峪を見下ろし、指を突きつけて言った。

「お前はもう、死んでいる」


「まだだ、まだ俺は終わっちゃいない」
俺は、ゆっくりと起き上がる。

 体の節々に痛みを感じるが、人間痛みなど意志の力でどうにでもなるらしい。
「死人は寝てろ」
珠洲は、無常にも九峪に死の宣告を突きつける。
「おい珠洲。寝てたら修行にならないだろう。言いから、もっと痛めつけろ」
「ちょっとまて−!! 藤那……今なんていった?」
「寝てたら修行にならん……か?」
「その後の部分だ」
「あ〜。忘れた」
「こんの、くそのんべぇ……」
九峪は、拳をわなわなと震わせて怒りを堪える。
(まだだ、まだ奴には勝てない。今は我慢だ雅比古!!)
そう自分に言い聞かせて、木刀を握りなおす。
「さぁ、もう一本だ!!」
九峪は声を荒げて、気合を入れる。
「………」
九峪の意外ながんばりに、珠洲は何も言わなかった。






九峪の訓練風景を眺めていた伊万里と上乃は、黙って訓練(?)を見ていたが、沈黙に耐え切れずに上乃が伊万里に話し掛けた。
「ねぇ、伊万里」
「なに?」
伊万里は九峪のほうを向いたまま、返事をする。
「意外に九峪様って、がんばるわよね」
「そうだな……いや、そんな事はないだろう」
伊万里は上乃のほうを振り返って言った。
「そんな事ないって?」
上乃はきょとんとする。
「だから、別に九峪様ががんばっているのは、意外でもなんでもないだろうということだよ」
「え〜、だって意外じゃん。あの九峪様がだよ」
あのという表現が、どこを指すのか、いまいち伊万里には分からなかった。上乃には、普段の九峪はがんばっていないように見えるということなんだろうと、伊万里は思った。
「上乃……九峪様はいつもがんばってるよ。普段見えないだけで」
「どういうところが?」
「復興軍の総大将として、いつもがんばっているじゃないか。人の上に立って、人を導くのと言うのは、並大抵のことじゃないだろ」

 火魅子候補として、人の上に立つ存在になった伊万里は、人を導くと言う事の責任感と孤独さを肌で感じ取っている。それでも、多くの仲間と、九峪と言う指導者がいるのでまだ楽な方だと感じていた。
「ん〜、それはいわれてみれば、そうかも」
上乃は言われて初めて気がついた風な事を言う。一軍の将として上乃も人の上に立つ。伊万里ほどではないにしても、伊万里のいいたいことの意味、つまり人の上に立つと言う事はなんとなくだが想像できる。
「だから、別に九峪様ががんばっているのは、意外でもなんでもないだろう」
伊万里の言葉に、上乃は素直に納得した。
「ふ〜ん………あ、もう一つ意外なことはっけ〜ん」
上乃が笑顔で言った。
「………」
その言葉に、何処となく嫌な予感のした伊万里は、あえて何も聞かずに様子を見る。
「あ〜ん。聞いてよ聞いてよ」
「くだらない事なら聞かないよ」
聞かなかったら聞かなかったで勝手に喋りだす上乃に、伊万里は心で苦笑しながら聞くことにした。
「くだらなくないってばさ。ただ、伊万里が九峪様のことをよく見ているんだなぁって。それが意外だったの」
「なっ!?………からかっているのか?」
あまりに意外な言葉だったらしく、伊万里は疑うような目で上乃を見ながら言った。
「べっつに〜。からかってないよ」
態度特徴は、あきらかにからかっている。
「い〜や、からかっているだろう」
伊万里は上乃の言葉が信じられずに追求した。
「だから、からかってないってば〜」
しかし上乃は否定する。こうして、二人はしばらくの間、「からかっている」「からかっていない」という言い合いを続けるのだった。



「藤那。ちょっといい?」
九峪の練習風景を面白そうに口元を歪めて見ていた藤那に、閑谷が話し掛ける。
「なんだ、閑谷。お前も珠洲に虐められたいのか? いつもお前を虐めてやっているだろう。あれでは、満足出来ないのか?」
「って、かってに話し進めないでよ。それだと、まるでボクが変態みたいじゃないか」
「………違うのか?」
藤那は眉をひそめて意外そうな表情をする。その表情を見た閑谷は、ムカッと来て言い返した。
「違うよ!! もしボクが変態なら、藤那だって変態だよ」
「なっ!? 私の何処が変態だと言うのだ!!」
閑谷の思わぬ反撃に、藤那は眉を吊り上げて怒鳴る。怒鳴り返してきた藤那に、閑谷は少し腰を引き気味に言い返した。
「ボクを虐めて喜んでいる所が、変態だと思うよ」
「安心しろ、それは変態だとは言わん」
藤那ははっきりと言い放った。閑谷は少し呆れながらに言った。
「その根拠のない自信は、何処から来るんだよ……」
「そんな事はどうでもいい。それで、なんだ?」
「どうでもいいって、相変わらずの傍若無人だなぁ……藤那は」
閑谷はこれ以上いっても意味が無いと諦めた。藤那の根拠のない自信は今に始まった事でもないからでもあり、いつもそれに振り回されてきたからでもある。
一人何かを納得している閑谷の態度が面白くないのか、少し苛立ちながら藤那は言った。
「いいから要件を言え」
「わかったよ。藤那は何でここにいるの?」
「何でって、どういう意味だ?」
閑谷の云わんとしている事が、いまいち藤那には理解が出来ずに眉をひそめる。
「だって、本当に九峪様の訓練風景をみて、楽しいの?」
「お〜楽しいぞ。特に虐められている姿はな」
納得がいった藤那は、そう言うとぐいっとお酒を一杯煽る。その様子を半目で見ながら閑谷は呟いた。
「……やっぱり変態じゃないか……」
「なんだと、このクソ餓鬼が!!」
閑谷の呟きがはっきりと聞こえた藤那は、きっと閑谷を睨めつける。閑谷はそれに負けじと睨み返しながら言った。
「だって、人の苦しむ姿を見て喜んでいるんじゃないか!!」
「そんなわけあるか!!」
「だったら、何でだよ」
閑谷の問いに、藤那は言いよどむ。
「そ、それは……その……なんだ。あれだあれ」
「あれ?」
「そう、あれだ」
上手く誤魔化せないでいる藤那に、閑谷は執拗に迫る。
「あれじゃ分からないよ」
「あれでわかれ、この馬鹿者が」
「馬鹿だからわからないんだよ。教えてよ〜藤那〜」
二人の問答を黙って見ていた土岐が、ここで口を挟んできた。
「閑谷。藤那は、がんばっている九峪殿の姿を見ているんだ。性格はこうだが、気になる相手の努力している姿は見ていたいのだろう」
「えっ!? ふ〜ん、、、そうなんだ……」
「こら土岐!! 何を言い出すんだ」
「微妙な乙女心なのだろう」

「〜〜〜〜〜〜」


真っ赤になって俯き黙りこんでしまった藤那を、閑谷は複雑な表情で見るのだった。




 座敷の上にちょこんと正座をし、お茶を飲みながら訓練の様子を見ているのは只深である。
その横には、壁に体を預けて訓練を眺めている清瑞の姿がある。
 お互い、ただ黙って訓練の風景を眺めていたが、沈黙に耐え切れずに只深が口を開いた。
「なぁ清瑞はん」
只深に呼ばれ、少し間を置いてから清瑞は只深の方に視線を向けて答える。
「…………なんですか、只深様?」
「どうして清瑞はんは、九峪はんに付き合って訓練を見てはるんですの?」
「そ、それは………私は九峪の護衛だからです」
「じゃ、護衛やのうたら、付き合わへんかったん?」
「――っ!?」
この問いかけに、清瑞は言葉を詰まらせる。
「――も、もちろんです」
「ふ〜ん」
清瑞は、何とかそれだけやっと口にする。只深は、動揺している清瑞を白い目で見ながらさらに質問する。
「なら、質問をかえるわ。九峪はんの事、どう思うてはります?」

「な―――――」


突然の大声に、周りの視線が清瑞に集中する。
「――――っちゃんはね。さちこってゆ〜んだ、ほんとはね」
「なっちゃんて誰やねん!!」
歌って誤魔化した清瑞に、只深は鋭く突っ込みを入れる。
「しっつれい、しました−」
清瑞はそう言うと、お辞儀する。
視線を向けていた人達も、なんだ漫才の練習かと判断すると、視線を九峪の方の戻す。(それで納得するなよ)
 何とか誤魔化せたと安堵の息を吐いた清瑞に、只深は改めて質問した。
「それで、どうおもってはりますの?」
「なんとも思ってません」
 落ち着いた清瑞は、そうはっきりと只深に言う。その目をじっと見ていた只深は、ふっと表情を緩ませていった。
「うち、疑りぶこう人間なんですわ」
その言葉に、清瑞は言った。
「信用してください」
「わかりました。信用しますわ」
そうあっさりと言った只深に、清瑞は意外そうな表情を向ける。

 そんな清瑞に向かって、只深は笑顔を浮かべていった。
「信用して、いいんでっしゃろ?」
「……………は、はい………」
清瑞は、只深の雰囲気から、そう言うしかなかった。

「しかし、何故そのような事をお聞きになったのですか?」
「ん〜、ほら。清瑞はんは九峪はんといつも一緒にいますやろ? せやけ、ちょっと不安になったんですわ」
「不安? 何に不安だったのですか?」
「いややわ。そんな事うちの口からはいわせんといて−な」
「(もしかして、只深様は九峪の事が………)」
清瑞はそう思うも、口には出さない。

…………ズキ………ズキ

清瑞は胸の奥の方で、そんな音と鈍い痛みを感じていた。

「(なんなんだ、これは)」
物心ついた時から、乱破として育てられて来た清瑞には、心の感じる初めての感情が何か知るよしもなかった。




******

「九峪様……」








ドカ!!












「無駄な」









バキ!!











「動きが」









ボコ!!









「多い」






バタン!!








「し……死ぬ…………」
「まだ無駄口を叩く余裕があるようね」
「鬼………」
九峪は、痛む体に鞭打って立ち上がる。
「(斬り方の訓練はどうした?)」
そんな思いが九峪の頭をよぎるが、珠洲は容赦なく言い放つ。
「……じゃ、もう一度」
そう宣言すると、珠洲はカカシを操り糸で、再び動かし始める。

 九峪は、握った木刀を正眼に構え、無意識の内に、体を横向きにする。その方が、正面を向いて構える時よりも、体を多く晒さなくて済む事を学んでいた。

カラ………カラカラカラ

 カカシの歯車の音が聞こえる。

 人には出来ない動きをする人形に最初は戸惑っていた。
 しかし九峪は、カカシが動く時に出る歯車の音を聞き分け、動きに対応してきていた。

「………くっ………」
思うように攻撃が当たらなくなって来ている珠洲は、内心舌打ちする。

 いくら人間に出来ない動きをするカカシでも、人と違って瞬時の応用は利かないし、柔軟な動きは出来ない。

ガキッ!!  ヒュンヒュン バン、バン

九峪は相手の動きをじっくり監察し、木刀で牽制しながら攻撃を封じる。

 伊万里が認めていたように、九峪の見切りは有段者並なのである。
九峪の物事の本質を見抜くずば抜けた洞察力は、ここでも力を発揮していた。

「(人形の動きは大体わかった。その弱点は大きく二つあるが………)」
カカシの攻撃を避けながら、九峪は冷静に考えていた。
「………そこっ!!………」
珠洲は、一瞬の隙を見逃さずに九峪に攻撃を仕掛ける。人形の腕が伸びて、九峪の腹を狙う。
「うわっぁと」
体を捻りながら後ろに態勢を逸らしてかわす。



ドカッ





 何とか人形の攻撃をかわした九峪だったが、バランスが取れずにそのまま転倒してしまう。
それを見た珠洲が、九峪を見下ろしながら言った。

「…………どうしたの…………もう終わり?…………」
「いや、なんとなくわかってきた所だ」
そう言うと、九峪は起き上がる。それを確認すると、珠洲は再びカカシを操り、九峪に襲い掛からせる。


「(簡単な事だよな)」


九峪は心の中でそう思うと、後ろに下がる。
カカシは、後ろに下がった九峪を追う。
九峪はさらに下がる。
カカシは、さらに下がった九峪を追いかける。



ガク、ガク、、、




「!?」
カカシの動きがとたんに悪くなり、膝を曲げる。

 よく見ると、人形を操る糸が伸びきり、遊び(緩み)がほとんど無くなっていた。
それに気付いた珠洲は、人形と自分との間の距離をつめるが、それより早く人形の糸を九峪は素手で掴んだ。
「ま、他にもいろいろ攻略法はあるんだけどな。遊びが無くなれば動きが悪くなる。逆に遊びがあり過ぎても動きが悪くなる。人形使いと人形との距離は常に一定に保たないと、相手の動きについていけない。これが弱点の一つ」
そう言うと、九峪は人形と珠洲の間に体を割り込ませる。
「これが、二つ目の弱点。人形と傀儡師との間に割り込めば、傀儡師の間合いを崩す事が出来る。手前に向かって移動させるのは難しいんじゃないのか?」
「…………」
九峪の疑問に、珠洲は黙って沈黙を保つ。素直ではない珠洲に、九峪は肩をすくめる。そんな油断している九峪の隙を突き、珠洲はカカシを操る。珠洲の操るカカシは、九峪に………つまり、手前に向かって動く。
「ま、そうだろうな」
珠洲の性格から、その行動をあらかじめ予測していた九峪は、慌てずにそのまま一足飛びで珠洲の目の前に移動する。
「なっ!?」
瞬間移動したような九峪の動きに珠洲は驚いてしまい、その油断がミスを誘ってしまった。


 カカシと傀儡師の距離が詰まれば、糸の遊びが大きくなってしまう……が、遊びが一定の大きさを越えると、カカシは傀儡師の操作の手から離れてしまうのである。

 珠洲の手を離れたカカシは、そのままの勢いで九峪に……そしてその先にいる珠洲に向かって…………






ドカァァァァァァ












 珠洲がカカシの操作を失敗するとは思っていなかった為、九峪は見事に珠洲を巻き込んで転倒する。
結果、九峪は人形に押し倒され、珠洲は九峪に押し倒された形になる。
「痛てててて…………」
「……重い……」
九峪の下敷きになった珠洲が、抗議の声をあげる。
「わかってるよ、仕方ないだろ」
見た目よりも重たいカカシをどかそうとするが、操り糸が絡まって思うようにいかない。

 倒れこんでいる九峪と珠洲の側に、見学者たちが集まってくる。
「大丈夫ですか、九峪様」
そう声をかけてきたのは伊万里だった。
「ああ、大丈夫だ」
顔だけそちらを向けて、返事をする。そして再び、カカシを退けようとするが
「くそ、くそっ―――って、うわっと」
不自然な体勢での作業だった為、九峪はバランスを崩して再び倒れこんでしまった。

 下になっている珠洲にとっては、たまったものではない。
「(わざとやってる)」
そう思った珠洲は、今の状況を甘んじて受けるほど大人でもなく、九峪に仕返しをする事に決めた。


「…………九峪様………その………あたってる………」

ピ、ピキィ!!

「は、はぁ!?」
珠洲のいきなりの言葉に、九峪は素っ頓狂な声を出す。そして、何かにヒビが入る音を確かに聞いた。

 周りの空気が変わったのを感じ取った珠洲は、さらに続けて言う。
「…………九峪様…………その……人前だよ………」
そう言うと珠洲は、頬を赤らめ九峪から視線を逸らす仕草をする。


ピキピキ!!

再び九峪は、何かにヒビが入る音を聞いた。

「く、九峪様……そのままだと、珠洲が苦しいでしょうから、早く立ち上がっては?」
言葉に冷たさと怒気を含ませながら、志野は倒れている二人に指摘する。その言葉に同調して珠洲は言った。
「……ん………重い………」
「ほら、珠洲もそう言ってますし……」
「……でも……いつもだし………慣れてるから………」

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんんででででででででですすすすすすすすすすてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 一体どんな想像をしたのか本人以外は分からないが、星華は形相は修羅の領域に突入した。

そしてあたりの物を破壊し始める。



後に、この惨劇の跡を見た嵩虎はこう呟いた。











「ゴジラ、日本上陸」






 星華の破壊活動を他所に、それぞれ九峪に白い目を向ける。
「九峪様………すけべ、すけべとは思っていましたが…………そこまで堕ちていたのですか…………」
「い、伊万里……俺を信じてくれ!!」
「………少女趣味だったのか。優柔不断とばかり思っていたが………」
「藤那。俺にはそんな趣味は無い!!」
「………九峪様………年齢限定型やったんか」
「只深………追い詰めないでくれ……」
「……いやいや、この場合は年齢指定型でしょう」
「亜衣………俺に何の恨みがあるんだ……」
「九峪様の世界じゃ、『まにあっく』って言うんだよね?」
「上乃にそんな言葉教えた覚えは無いぞ−!!」
「うん? 『ろりこん』じゃなかったか?」
「織部にも教えた覚えね−!!」
「そういえば、羽江と珠洲は同年代だったな…………気をつけておけ」
「清瑞……お前までそんな事を言うのか……」
だが、九峪を余所に集まった者達はひそひそと九峪に聞こえるように、自分の想像を近くの者に話しつづける。

 自分の事を信じてくれない皆に、九峪は顔を上げて叫んで言った。
「待て待て待て待て皆!! 勘違いだ!! 陰謀だ!! 策略だ!! 謀略だ!! そして誤解だ!!」
九峪は、自分の株価が暴落しているを感じて必死に弁護する。しかし、今の状態で何を言っても説得力が無い。
前後の出来事から考えればそんな事は無いが、集待っている面々は、珠洲の術中に陥ってしまっていた。

 中には、冷静な者もいる。香蘭と夷緒である。
「皆さん………本当に信じなくても」
「怒る、よくない。ところで、なにおこてるか?」
訂正、香蘭は天然である。

 九峪は、自分を追い込んでいる珠洲を睨んでいった。
「珠洲、大体お前のせいで勘違いされてるんだぞ。お前も何とか言えよ!!」
「………みつめちゃ、、、、、イヤ」
「みつめてねぇぇぇぇぇぇ!!」
「ボク、、、、、、、、、いいよ、、、、、、、大丈夫、、、、、、泣かないから
「なに演技いれてんだ−!! しかも、棒読み−!!“ボク”を使うなぁぁぁぁ!!」
しかし、志野は衝撃を受けたようによろめきながら呟く。
「―――――珠洲、、、、そう、、、、、そうだったの…………」
「そこ、本気にするな−!!」
九峪は叫びつづけた影響で、息を切らす。そして、怒りの形相を珠洲に向けて言った。
「はぁはぁはぁ…………珠洲………どういうつもりだ? 悪ふざけにもほどがあるぞ」
「だって、ボク、、、、ようじょ、、、だもん」

ポチ

しらを切りとおす珠洲に、九峪の中の何かにスイッチが入る。
「この後に及んで、この腹黒幼女がなにぬかすかぁぁぁぁぁ!!」
「お兄ちゃん、、、、来て、、、、」
「何処まで俺を追い込めば気が済むんだ―!!」
「………ニャン」
「お前は何処まで突き進む気だ―!!」
「ふぇ………ひどいよ…………責任とってよ………」
「帰ってこ−い!!」
「珠洲ちゃんの、腹の黒さは御姉様並よね」
「うぐぅ」
夷緒の呟きに、珠洲がうめきを上げる。どうやら、堪えたらしい。

 しかし、その言葉に過敏に反応する娘がもう一人居た。亜衣である。
「ちょっと夷緒、それってどういう事だ!?」
「あら、お姉さま。自覚が無かったのですか?」
「私は軍師で、政を取り仕切っているのだ。本意とは別の、辛い決断をしなければならない。大局を見据えているんだ。感情でしか物事を判断出来ない筋肉馬鹿娘が、なにを悟った風な事を………」
亜衣はそう言うと、夷緒に嘲笑の笑みを向ける。
「あらお姉様。私の事を、馬鹿とおっしゃいますの?」
「ほう………馬鹿にされた事がわかるくらいは賢いようだな」
「御姉様………怒りますよ」
「怒るなよ。馬鹿じゃない奴を馬鹿にする事に意味があるんだ。本当に馬鹿な奴に馬鹿と言っても意味ないだろ。そいつは馬鹿なんだからな。それもわからず、馬鹿を馬鹿にする奴は馬鹿なんだ。だから、お前は馬鹿じゃないんだ。良かったなぁ」
そう言うと、亜衣はポンポンと夷緒の肩を叩く。
「ぐぁ、なんか悔しいわ。なんか悔しいわ。馬鹿にされているようで、悔しいわ。悔しいのよ!!」
「いや、だから馬鹿にされてるんだろ」
九峪はそう指摘する。

「なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


夷緒はそう叫ぶと、手近な物(カカシ)を力任せに持ち上げる。
「おお、うわ、うわぁ!?」
カカシの操り糸に絡待っている九峪も一緒に、引きずられてしまう。
夷緒はそれに気付かず、そのカカシを亜衣を巻き込んで外に向かって全力で投げつける。




ブチブチブチブチ―――――。びゅ〜〜〜〜〜ん



盛大に糸の切れる音と、カカシの飛んでいく音が聞こえる。




「いやぁ、訓練で、掻いた汗は、気持ちよかね」
外を歩いていた砥部は、訓練から部屋に戻る途中だった。
「おお、砥部やないか。どげんしたね? 訓練から戻りか?」
「重然かぁ。そうなんよ」
「そうかぁ。どや、この後一杯やらんか?」
「そりゃ、ええのう」




びゅ〜〜〜〜〜ん






「うん? なんの……と―――――」




チュド――――ン






「ゴルバブァベギャ」


「と、砥部ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

重然は叫ぶ。しかし、哀れにも砥部は偶然にも跳んできたカカシの餌食となる。そして――――

「な、なんやと!?」


砥部に命中したカカシが軌道を変え、重然に向かって飛んで来る。
「こなくそ、こうなったらワイのひっさ―」

チュド――――ン



言い終わる前に、カカシは重然に命中する。
「………ま、まだ………セリフの途中や…ないけ………ぐふぅ」
重然はセリフの途中で半ば倒れた。




後に、この惨劇の跡を見た嵩虎はこう呟いた。











「祝・二枚抜き達成」



正確には三枚抜きである。



 幸か不幸か夷緒の活躍(?)のおかげで、九峪はカカシと珠洲から開放される。
しかし、九峪本人は力尽き、気絶している。巻き込まれた亜衣も一緒に気絶をする。
「きゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
倒れて気絶した九峪を見て、亜衣は感想を述べる。
「ほら、夷緒の馬鹿力で九峪様が死んでしまったではないか」
「亜衣さん。九峪様はまだ生きています!! 勝手に殺さないで下さい」
志野がきっぱりと言う。
「それより、下敷きになってた私の心配はしてくれないわけ?」
存在を忘れられていた珠洲が講義の声をあげる。
「あれほど九峪様を苛めたんだ。本望だろう?」
そう応えたのは、藤那である。
「気が付いてたの?」
珠洲が意外そうな表情をする。
「あれが、珠洲のいたずらなのは、誰が見てもわかるぜ」
そう言うと、織部はにやりとする。その表情からは、最初からすべてお見通しだったと言うようである。
「あそこに、約一名わかってない人も居るようやけど………」
只深はそう言うと、暴れている星華の方を向く。そこには、いまだ破壊活動をしている星華の姿があった。
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「………誰か、止めないの? 道場がつかえなくなる前に………」
「いいんじゃない? 巻き込まれるのも嫌だし」
上乃の指摘に、誰もが逸れもそうだと相槌を打つ。

 そんな中、土岐は一人呟く。
「しかし、まぁ…………これは好機なのだろうな」
「ん? 土岐……なにが好機なんだ?」
耳ざとく聞きつけた藤那は土岐に聞きなおす。土岐は、特に深く考えるでもなく、自分の考えを述べた。
「なに。ここで九峪様を介抱すれば、好感度上昇間違いな――」

ドタドタドタバタバタバタ



 土岐が言い終わる前に、集まったヒロイン達は倒れている九峪に突進していく。



 その様子を、土岐は苦笑交じりに感想を述べる。
「恋に戦い。みな、相手には事欠かぬようだ」
そして、九峪の未来に少し同情すると付け加えるのだった。







 一番最初に駆けつけたのは、伊万里だった。
「九峪様、大丈夫ですか?」
そう言うと、伊万里は倒れている九峪の頭を少し持ち上げる。
「う、うぅぅぅぅ」
志野は伊万里の反対側に座り、九峪の背中に手を回して上半身を起こす。
「きゅ〜〜〜」
しかし、九峪は気絶したまま反応しない。
「なんてひどい怪我や……いったい誰が」
九峪の状態を観察した只深は、ちらりと夷緒を見る。しかし、夷緒はさっと只深から視線を逸らしてそ知らぬ顔をする。
「早く手当てを……」
「いや、それは私が―――」
「いいえ、私がします」
「それは私の役目です」
「い、痛い……」
「こういうのは、専門家の忌瀬さんに………」
「おお、香蘭。医務室に、九峪様、運ぶね」
そう言うと、香蘭は倒れている九峪を抱え挙げようとする
「いえ、私も医術には心得があります」
伊万里はきっぱり言うと
「それは初耳だな」
藤那の指摘に、むっとしながら伊万里は答える。
「そうですか。ですが、その位の治療術は山人の嗜みの1つですから」
「簡単な怪我なら、その場で手当てする。山人なら常識よね」
上乃が伊万里の言葉を補足する。
「病気ではなく、外傷なのですから、忌瀬殿の手を煩わせるまでもありません」
「そうそう。俺達だけで十分だから、邪魔するなよ」
志野と織部も伊万里と上乃の味方をする。藤那からしてみれば、それは面白くはない。
「む、志野と織部も心得があるような言い方だな」
「ええ、白拍子がいくら気ままな生活と言っても、危険がないわけではありませんから。あがりを狙う方とか居ますし」
そう言うと、志野は笑顔を藤那に向ける。
「そうそう。そういう連中と一戦やりあうなんて、日常じゃそう珍しくないんだぜ。自分の身は自分で守るのが常識だぜ」
志野と織部の言葉に、藤那は言葉を詰まらせる。
「ま、お嬢様育ちのあんたにやる事はないから、邪魔しないように隅っこに居てくれよ」
織部はそう言うと、しっしという仕草で藤那を追い払おうとする。
「(こいつら………結託したな………)」
暗黙の了解で、伊万里、上乃、志野、織部が手を組んだと予測した藤那は、負けじと言い返す。
「しかし、九峪は総大将だ。下手な知識で治療をするよりも、専門家に任せた方が良いだろう。その方が治りも早い。香蘭と只深もそう思うだろう?」
「そっちの方が、効率はええやろうな」
只深は、どうやら藤那に手を貸すようである。
「おお、香蘭、こゆ時なんて言うか知ってるのことよ。怪我の功名?」
「――――――」
「――――――」
あまりに自身満々な態度の香蘭に、藤那も只深も何も言えずにいる。
「あ、うん。そうだな。それはいいから、早く九峪様を医務室に連れて行ってやれ」
「わかったのことよ」
香蘭は、藤那に言われて九峪を再び抱えあげようとする。
「いえ、香蘭様。私達だけで十分です」
「そうですよ。香蘭様も、邪魔にならないように隅っこで寂しく見てればいいから」
「香蘭殿。話は聞かないでいいから、問答無用で九峪を医務室に連れて行こう」
「お、おお、わかたね」
香蘭は、無理やり九峪を伊万里達から引き剥がそうとする。
「香蘭様。無理に動かすと、九峪様の傷に響きます!!」
志野達も負けじと、九峪の体を香蘭に持っていかれないように抵抗する。
「い、痛い…………」
九峪の呻きも、彼女らの耳には届いていない。
「香蘭様。無理はいけません。九峪様に必要なのは安静です」
「気にするな香蘭殿。九峪に必要なのは一刻も早い適切な治療なのだ」
「治療なら私達が行います!!」
「素人の付け焼刃ほど危険や。ここは忌瀬はんに治療を頼むのが、合理的や」

そんな彼女達のやり取りに加わっていない者が居た。一人は夷緒。張本人であり、もう一人は清瑞である。
「つ………ついていけない………」
それが、従来より恋愛表現が苦手な清瑞の感想であった。

「ああ!! このままではきりがない!! 香蘭殿。かまわないから彼女達をやっつけてしまえ」
「「な、なんですって!?」」
伊万里達は声を揃えて驚きの声を上げる。
「お、おお!? わかたのことよ。恨まないで欲しいのことよ」
そう言うと、実力行使に出る香蘭。
「こ、こうなったら自棄よ!!」
そう言い出し、香蘭を迎撃しに言ったのは上乃である。
「所詮、血塗られた道ということか」
織部も仕方がないといった風に立ち上がり、志野と上乃に続く。

ガキィ!!

 振り下ろされた刀を、藤那は体をひねって交わす。
「伊万里殿、危ないではないか」
「なにをおっしゃいますか。一人安全な所で傍観しようなど、虫が良すぎるのです」

「それじゃ、うちは今のうちに九峪様を―――」
一人、影の薄かった只深が、争っている面々を他所に九峪に近づく。
「あら只深さま。お一人でなにをなさろうと言うのですか?」
そう言ったのは、志野である。志野は一人おとなしかった只深の動きに気を配っていたのだ。
「いややわ志野はん。見逃して―な」
「いいえ、見逃せませんね」
「う〜ん。うちは、これと言って特技はあらへんさかい、争い事は苦手なんよね。どうやろう、此処はひとつ、協力しまへんか?」
「(それも悪くないわね)」
只深の申し出に、志野はしばし考える。そして出た結論は
「いいわ、一時休戦といきましょう」
只深の申し出に合意する内容だった。

 しかし、それを良しとしない一人の娘が居た。珠洲である。珠洲は、こっそり九峪をつれてその場を離れようとしている只深と志野に気が付くと、声を高々にして言った。
「あれ、志野と只深様。九峪様をつれてどこに行くの?」
後で志野になんと言われるかわかったものではないが、珠洲は志野が九峪に取られるよりはマシだと判断した結果だった。
「「なんですってぇぇぇぇ!!」」
 珠洲の指摘に、争っていた伊万里達は一斉に志野の方を向く。
「す、珠洲………後でアレだからね………」
「は、はは………みなはん、冷静に………」
「「抜け駆けは、許されないわよ」」
藤那たちはそう言うと、攻撃の目標に志野と只深を追加した。



 約一時間後―――――

「遅れちゃったな―――」
遅れてきた愛宕が、道場の中に入る。そして

「―――って、ええ!?」
道場の惨状に驚きの声をあげる。
「く、九峪!? みんな、いったいどうしちゃったの!?」
惨状の中に、愛宕は九峪の姿を見つける。
「パトラッシュ………ボク、、、、、疲れたよ…………とっても眠いんだ……」
「く、九峪様!? 大丈夫? しっかりしてよ………九峪さま−!!」
愛宕の呼びかけ空しく、九峪が目覚めたのは二日後の事だった。


To be continue ?

初アップ時には、マサさん側で没とされていて公開していなかったシーンを、マサさんの許可を得て追加公開させていただきました。九峪の稽古シーンを眺める伊万里たち、藤那たち、只深たちの場面と、九峪の介抱を誰がするかで争う場面です。


 マサさんからSSをいただきました♪

 この九峪くん・・・・・・「南無」という言葉がものすごくしっくりきますね〜。女性陣に好かれて愛されてるんでしょうけど(珠洲除く)皆の愛情表現がかなり屈折してるから、本人気づいてないですね、きっと。すけべな評判以上にいい評判も流れてるはずなのに、こっちも分かってないし。
 九峪の天敵、珠洲の「九峪遊び」も慣れてますが(笑)、それに加えておこった宗像姉妹のケンカによって、巻き込まれた重然と砥部にも密かに手を合わせておきましょう(死んでないけど)

 ちなみに、私的一番のヒット。
 「ゴジラ、日本上陸」
 いやもう、ぴったり(笑)

 マサさん、どうもありがとうございました!続き?も楽しみにしております♪


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