「ブエノスアイレスの第9」〜ふたつのCD

昨年11月にARIOSOなるレーベルから1941年のブエノスアイレスでの第9の録音がCD化されました。

通常では入手難の音源でしたし、演奏のヴォルテージの高さもあってファンの間ではなかなか好評でありました。

しかし残念だったのはフィナーレでわずかながら2箇所の欠落があったこと。

ひとつは.冒頭から91小節、楽想で言いかえますと歓喜の主題の提示直前まで。

もうひとつは528小節から594小節まで、アラ・マルチアの後半オケが静まってホルンが残るところから続く合唱部分。

ARIOSO盤ではその部分を"・・・taken from the performance on the June 6th 1941,・・・"  という形で埋めまして、

これはこれでまた驚いたものでした。

 

しかしSachsの”TOSCANINI”にはブエノスアイレスでの第9の演奏日について、”20,25,29 Jun,24 Jul 41”

とありまして6月6日には第9の演奏記録はないようです。

 

それから数ヶ月後、以前から情報のあった、同演奏のM&AからのCDが"A WORLD PREMIERE RELEASE"店頭に登場しました。

当然欠落部分がどのように処理されているかが興味となりまして、さっそくそのCDを手にしてみました。

裏面には"・・・dubbed in from another recording of the same performance"とあります。

これは聴いてみようということでさっそく購入しました。

 

都合のいいことに両盤とも欠落部分にトラックが振ってありまして、容易に聴くことができます。

比較したところ、結論から言いまして欠落を埋めた演奏は同一のものでした。

数箇所のノイズから推定して最初の欠落部分については間違いなく同一です。

アラ・マルチア後半の部分については楽想のせいか目だったこともなく演奏は過ぎて行きますが、

おそらく同一の演奏であると思います。

英協会盤あたりから欠落部分を抜いてきたのだろうとおもいますが、

両者の音のクオリティはかなり違いまして、M&A盤はそこそこ聴きやすいのですが、

ARIOSO盤ではやや途中派手にスクラッチ・ノイズが入ります。

そんなわけで、ケースの文面から違う演奏を期待されて購入することないようお知らせしておきます。

またM&A盤はつなぎ自体はスムーズなのですが、つなぐ場所を間違っていましてホルンの付点リズムが1回多く聴こえます。

この盤、ケースの背中もミスっていまして、片方は"Zino Francescatti IN PERFORMACE CD-1118"となっています。

全体の音質としてはARIOSO盤のほうが高音がきつくリアルな感じがします、逆にいえばM&A盤の方が聴きやすい感じです。

ただし最後の拍手同じ拍手のはずですが、入り方がM&A盤ではちょっと不自然な感じがします。

ARIOSO盤は拍手が長いですが、最後に少しだけポルトガル語でアナウンスが入ります。


ところでM&A盤がミスったつなぎの部分を聴いていて妙な事に気が付きましたので報告します。

この部分(525〜542小節)、ホルンの付点リズムに弦、木管が歓喜の主題の冒頭部分を断片的にはさんでいきます。

弦、木管が入っている間(529〜530、535〜536小節)ホルンは音を伸ばしているのですが、この演奏では529〜530小節で

歓喜の主題をなぞって、付点四分音符を四つ(実際には四つ目は次の小節の四分音符とタイでつながれています)続けて吹かせて

いるように聴こえます。


これはなにかしらと思って手許のトスカニーニの第9の演奏を聴いてみました。

      36年 3月 8日 NYPO        Dante          LYS 581
      38年 2月 6日 NBC         Dante          LYS 408
      39年12月 2日 NBC         Naxos         8.110824
      41年 7月24日 T.Cologne    Music and Arts   CD−1119
      46年 6月24日 La Scala     Music and Arts   CD−1027
      48年 4月 3日 NBC         SONY(LD)       OOLS2012
      52年 3月31日 NBC         BMG          BVCC−9917

今回のブエノスアイレスでの演奏のほかでは、NBCとの最初の第9である38年の録音がこのように聴こえます。

DanteのCDのほか、ある方のご好意でいただいた同演奏のLPからCD−Rにダビングしたものも同様でした。

この改変がどのような資料に基づくかは不明ですが、おそらく珍しいものであろうと思います。

とりあえずシェルヘン、ベーム、フェレンチク、カラヤン、ノイマン、ジンマン、アーノンクール、アバドと片っ端から聴きましたが、

同様の改変は見つかりませんでした。

 

ふたつの演奏に聴かれる改変。トスカニーニの思いつきか、はたまた偶然の産物か、それとも私の空耳か・・・?

                 

                                               2003.6.22  Massa−

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