Ilia Kulikの「道化師」

このプログラムは98年の4月にアメリカでたて続けに行われた,Hershey's Kisses Pro-amのEXとUltimate FourのFPで披露されたものです。ですから,今のところ本邦未公開。Hershey'sのEX放送は,あちらではカットされたのでファンが荒れまくってTV局に電話が殺到して大変だったとか。日本でも似た様なことがありましたね。

「道化師」とは

 「道化師」とは何ぞやという方のために簡単にご説明。イタリアのレオンカヴァルロの有名なオペラ。旅芝居の一座を率いる座長カニオの美人妻ネッダが滞在中の村の美青年シルヴィオと浮気。ついには2人で駆け落ちの相談なんかをしている時に芝居に出るためにカニオが戻ってきて,「どういうこっちゃ」と怒り心頭,でももう開演まで時間がないので,妻の不貞を嘆き悲しみながらも道化の衣裳に着替えて舞台の準備を。この部分が特に有名な「衣裳をつけろ」というアリアで,イリアが滑ったのもこの曲の部分。

 舞台の幕があがり,ネッダも役者なので出演,この日の演し物はカニオが扮する,道化師を生業とする夫の留守中に妻が不貞を働いたというもの。演じているうちに,カニオは現実と芝居の区別がつかなくなり,ネッダを本当にブスっとやってしまいます。客席で見ていて驚いた浮気相手のシルヴィオは舞台に駆け寄りますが,カニオはこれもついでにエイッとやってしまい,舞台は血の海に。「これにて道化芝居は終了でございます」とカニオが自虐的に挨拶して倒れたネッダの上に泣き伏して幕がおります。

 と,まあ,イタリアものにありがちな血なまぐさい話し。もっとちゃんとしたストーリーが知りたい方は,本屋へ行けばたいがいのオペラ入門書にこれは載っていますので,そちらをご覧下さい。今だと3大テノールは全員それぞれの持ち味でこの曲を歌います。私は聞いたことがありませんが,その昔,カルーソーの道化師は素晴らしかったそうです。


  コスチューム; イメージはタイトル通り「道化師」でもちろん役柄はカニオです。白黒と聞いていたのでアダムス・ファミリーのようなものを想像していたら・・・なんじゃ,これは???また,随分と前衛的なお衣裳でございますこと。

縦に白黒で真っ二つに別れていて,左が黒,右が白。クツも左は黒,右は白。上半身の真ん中にボタンが4つ。ボタンもちゃんと真ん中で色が分かれていて,衣裳の白の上には黒,黒の上には白がくるようになってます。芸が細かいですね。黒の半身はとてもシンプル,白い方は襟が大きな二重のフリルでヒラヒラ,こんなもんは今どきピンクハウスでも売ってないのでは・・・手首に金魚の尻尾のようなヒラヒラ,腰にも同じくヒラヒラ。この当時のイリアはかなり太り気味(だと思うんだけど)なので,黒は締まって見えるのでかっこいいけど,白い方は・・・かなりマヌケ。愛があればかわいく見えないこともありませんが。腰と手首のヒラヒラは,滑ると美しくなびきます。腰布は黒の半身のウエストやもっと下の方に巻きついたり,股の間でヒラヒラしたりとかなりエッチでそそられるものが(どこを見ているのやら)。首にはいつもの(かな?)ネックレス。

 

演技と感想

うつむいて両手を足元へ持っていき,準備完了。足先に向けて伸ばした指がとても長くてきれい。パヴァロッティ(だそうです)の「衣裳をつけろ」のアリアが流れると顔を上げてスタート。髪が長いのでよくなびきます。オープニングは3アクセル。何かを祈るかのように両手を上げてのランジから両膝をついて回転。3ルッツは左手をあげてのボイタノ・ルッツ。手が長いし背が高いから映えます。カニオが嘆き悲しむ部分に合わせたほんの2〜3歩の力が抜けたようなうつむき加減の何気ないストロークは,どうしようもない絶望感に打ちひしがれたカニオの感情をよく表しています。自嘲的な歌声とともに,両手を何度も高く上げ,シットスピンでは顔を覆い・・・アマチュアだけのコンペだとこういう振付はあまり見れないのでなかなか良いかも。バレエジャンプは手足が長くて美しいのでもっと普段からとんで欲しいですね。アラジン以来しばらく見ることのなかった長めのスパイラルは垂涎もので思わずうっとり。でも,上げた足が曲がってるのでマイナス5点。この衣裳でのスパイラルは氷の白,軸足の黒,上げた足の白とコントラストがはっきり出るのでとても美しいです。最後は両手を胸の前で重ねて何かを思いつめたような表情でジ・エンド。伏し目がちの切ない表情が乙女の小さな胸を締めつけます。
この演目は,以前あの新興宗教の教祖のようなトーラー・クライストンが彼特有の重々しい感情表現とともに滑ったことがあるので,それに比べると少しあっさりしすぎのような気もしますが,淡々とした中にも爆発的な悲しみを封じ込めた演技に見えなくもない(贔屓モード)ので,イリアの持ち味を生かすのであればこれでいいような気もします。白の部分はパンツがすけて見えるというウワサもあったので,じっくりと目を凝らして見てみましたがわかりませんでしたねえ。何回も見てたらそのうちおしりの白黒の色の分かれ目で裂けて破れるかと思ったんだけど(お品のない・・・)。またどこかで滑ってくれることを期待したいプログラムでした。

photo by Margaret Burwell



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Create:1998.08.11