君が望む永遠(その1)
2001年8月11日作成
最終更新日 2001年10月21日


【序盤から中盤について】
『きっかけ』

 ネットで繰り広げられる熱い感想に興味を持ち、どんな内容なのか確かめるべくアージュのホームページにアクセスしてみることにした。早速閲覧してみるとキャラの特徴をいかんなく引き出すショートストーリー(以下SS)が載っていて、読んでるうちに心惹かれていることに気がついた。結局はこれが決め手となって購入を踏み切ることにした。

『(いろんな意味で)破壊力満点のシナリオに引きずり込まれた』

 事前にSSを読んでいたので本編ではもっと凄いシナリオなんだろうとは予想していた。まさかここまでキャラに対して感情移入するとは思わなかった。一旦は細かな長所や欠点に気づくんだけど、プレイ中はそんなことすべて吹き飛んでしまう。というよりそうした些細なことに気を取られてる暇がなかったいえばいいだろうか。感情がストレートに伝わってくるのでキャラへの想いというのが知らず知らずのうちに強まっていった。

『1章から2章の序盤について』

 1章を見る限り物語の見せ方が非常に上手い。恋愛が絡むことでぎこちなくなる様子は見る者を引き込む力がある。それに、なんていってもこの章の終わりで急展開を見せた途端にオープニングテーマが始まるという衝撃的な仕掛けが用意されていて驚いた。
 2章になるとさらにとんでもないストーリーへと変貌する。「涼宮遥(以下遥)」が不慮の事故に遭ったのをきっかけに主人公「鳴海孝之(以下孝之)」は失意のどん底に陥ってしまう。時間を掛けてようやく立ち直ったかと思いきや、3年後になって突然遥が目覚めてしまうことでまたしても歯車が狂い出す。その後の展開を見ているうちに「こんなことなら奇跡なんか起こらない方が良かった」と思ってしまうほど事態は深刻さを増していく。
 印象的だったのは2章で遥の妹「涼宮茜(以下茜)」が感情的になって孝之を徹底的に非難するシーンは見ていて辛かった。遥が事故に巻き込まれたのは誰のせいでもないことは茜だって分かっていたはずだ。おそらく頭では理解していたんだろうけど、気持ちの方がついてこなかったのだろう。やり場のない怒りをどこにぶつければいいのかが分からず、誰かを悪者にして憎まないとやり切れなくなったのではないか。それを孝之は分かっているようで冷静に相手の気持ちを分析しながら聞いていた。その時彼の心のうちを覗いているうちに、なんともいたたまれない気持ちになってしまった。まあ、茜に関しては終盤でさらに思い知らされることになるんだけど、それはキャラ別感想の方で書こうと思う。

「ますます悪化する事態」

 こうして遥が悪夢の事故にあっただけでも十分に凹まされた。それから3年後になって彼女が目を覚ましてからのいきさつに至っては正直言ってぞっとした。
 担当医である「香月モトコ(以下モトコ)」が感情を殺して遥の様態を淡々と説明するところでは文字で読む以上に重苦しさを感じた。「医者の範疇を越えた現象なのでどうなるかは予測できない。3年も経過してそれぞれの生活はあるだろうけど、人として彼女にはあって欲しい。まだ記憶が混乱しているから見舞いに来るなら3年前の時と同じ素振りを演じてほしい」などを一つ一つ丁寧に語られるせいか、胸の苦しさがより一層強まった。
 これでは孝之がいろいろと思い悩むのも無理はない。自分たちは着実に3年という月日が経過していろんな変化があったというのに遥だけは立ち止まってしまっている。とはいってもいつ記憶が戻るか分からないし、容態もどうなるかはっきりしない。こんな状態に身を置いたら誰だって気持ちが沈んでしまう。

「緩急自在のシナリオ構成」

 ちょっと話は逸れるけど、「君が望む永遠」のシナリオには何かしら意図的なものを感じる。その一つに病院とバイト先の内容での大きなギャップが挙げあられる。遥が入院してる病院であれほどの修羅場を体験したかと思えば、そんなことを忘れさせるかのような脳天気なキャラとの会話を同じ日に体験する。あらかじめ計算しているんだろうけど、ここまで激しい落差があるとさっきまで何に悩んでいたのだろうなんて思ってしまうから不思議だ。


【一通り終えてみて】
『「君が望む永遠(以下君望)」最大の魅力とは』

 後になって冷静に考えるとシナリオには矛盾というか強引な展開が多いことに気づく。特に孝之の支離滅裂な行動には少なからず疑問を抱いた。他にもシナリオには不整合が多く見受けられ、普通ならクソゲー扱いされても仕方がない。
 ところが君望をプレイしている間はどうだったかというと、不思議なことにそれ程気にならなかった。何故そう思ったのかというと君望最大の魅力である「何気ない仕草によるちょっとした反応や鬼気迫る迫力を感じさせる表情を極限までに引き出した演出」を肌で感じたからだ。
 そのため、物語の前後の繋がりはあまり気にしない方がいいとさえ思えるようになった。もっともその場その場で伝わってくるキャラの感情があまりにも強烈なため、よほど意識しない限りはこれまでに積み重ねてきたことは一時的に吹き飛んでしまうはずだ。流石に全体の流れまで忘却の彼方に追いやるとまずいけど、多少の矛盾点などを忘れてしまえたからこそ、感情移入してのめり込むことが出来たんだと思う。

『妥協を許さない演出の数々』

 喋っているキャラはもちろん、隣で聞いているキャラも細かな演技をしたり表情が微妙に変化したりしているのにはビックリした。決してグラフィックパターンが多かった訳ではないんだけど、印象に残る表情やポーズに絞って作られていたせいか、見ていて飽きることがなかった。
 他にも近づいてくればバストアップになるし、遠ざかれば縮小するというように可能な限り状況に応じた演出をしているのには参った。背景にしても処理が多少重く感じるものの雨のエフェクトやラインスクロール風の歪み等は見応えがある。気づきにくいところでは微妙に変化していく空模様の表現なんか後で見直して驚いた。
 また、音の表現でも妙なこだわりがあり、遠近感を出すために音量を調節していたり、部屋の外から聞こえる中の様子もきちんとくぐもらせるといった現実に則した演出を施している。とまあ、数え上げたらキリが無いほど演出に抜かりは無く、正直「そこまでするか」と心の中で叫んでしまうほどだった。

『声優について』

 とりあえず、安心して聞けたのは涼宮茜と天川蛍のお二人。まあまあなのは速瀬水月、涼宮遥、玉野まゆ、穂村愛美、遥の両親、崎山健三、香月モトコ、平慎二。星乃文緒の場合は演技そのものよりあのしゃべり方がどうにも好きになれなかった。そして大空寺あゆなんだけど、ちょっと棒読みに感じるところが多かったように思う。それ以外の一般市民の方々は演技の上手下手にばらつきがあった。具体的には学校の生徒などはまあまあでファミレスの客は酷かったように記憶している。
 理想を言わせてもらえば「水夏」(サーカス)のように個別で音声設定が出来れば良かった。さらに欲を言えば演技の上手い声優だけを揃えてもらえば済むことなんだけど、流石にそこまで要求するのは無理というものだろう。

「某有名な声優について」

 そうそう、一人だけすっかり忘れていた。鳴海孝之のことである。彼は普段の台詞では全くもって喋らないんだけど、とあるところで密かに呟いていた。一体どこで聞けるのかというと、1章ではプールに到着して涼宮遥、涼宮茜、速瀬水月の3人について、2章ではファミレスで玉野まゆの自己紹介で乱入してくる大空寺あゆについて、それぞれの身体特徴を車の構造に例えて説明している時だ。ようく耳を澄ましていると、どこかで聞いたことのあるような声を拝聴することが出来る。PCM音源のBGMと一緒に収録されている上に、声のボリュームの方が小さいので確認しづらいのだけど、あの声はおそらく「聖闘士星矢」や「機動戦士ガンダム」の「アムロレイ」などでお馴染みの古谷徹氏ではないかと思われる。噂では無駄なところにお金を費やしたらしいけど、もしこれが本当だとすればアージュも大したものである。

『BGMについて』

 タイトル画面で流れる穏やかで落ち着きのある曲は聴いてると心が安まる。また感動させる場面で使われた「Runmbling Hearts pf」なんかは名曲中の名曲として後生に語り継がれることであろう。もちろん原曲である「Runmbling Hearts」も歌い手の上手下手はともかく、衝撃的なオープニングで流れた時には鳥肌が立った。それ以外も概ね良質のBGMが効果的に使用されていたと思う。

『非常に素晴らしいゲームシステム』

 以前は「ポートレイト」(テスラ)のゲームシステムが最高だと思っていたが、それを上回る使い勝手のいい優れた機能が多数搭載されていた。まず、一度見た文章の履歴をテキスト形式で読み返せるだけでなく、各台詞を再生してくれるのは非常に有り難かった。次に、メッセージの自動送りはキャラが喋り終えるまで待ってくれたり、送るタイミングの細かな調整などが出来るので、ゲーム中ストレスを感じることはほとんどなかった。
 他にも豊富なデータの保存スペース、文字のカスタマイズでフォントの種類やサイズなどを自分で設定出来るなど、細かな配慮が満載されていた。はっきりいって2001年9月現在では最高峰のシステムだといっても過言ではない。

『意外と目につく欠点』

 要所要所で誤字脱字が目立っていた。情感のこもった素晴らしい台詞が多かっただけにこの手のミスがあるのは非常にもったいない。
 また、あれだけ褒めちぎっていたシステムにも実は少なからず欠点がある。オートラン機能が作動しにくかったり、いきなり強制終了してしまったりと動作で不安定な部分があるのは勘弁してほしかった。また、未読既読の判別で多少甘いところがあり、使いどころが難しい。これらはちょっとしたことでなんとかなりそうな気がするので、次回作以降では可能な限り改善してほしい。

『結論』

 キャラクターの心情というものがダイレクトに伝わってくる演出は素晴らしいの一言に尽きる。シナリオはというと心の闇が極端に強調されているので好みが別れそうだが、単なる愛憎劇に留まらない内容なので個人的にはすごく気に入っている。特にメインヒロイン(遥、茜、水月)の背景にあるそうせざるを得ない状況にあることを誰か一人でも理解出来るようになれば、そのキャラに肩入れしてしまうほどの深い愛着が沸いくるはずだ。そうなれば完全に「君望」という世界にどっぷりとはまってゆけること請け合いだ。
 それにしても男女問わずキャラに対する肯定否定関係のない熱狂的な入れ込みようといい、問題の画像発覚によるソフト回収騒ぎといい、何かと話題に事欠かない。人気ソフトの宿命というと大袈裟かもしれないが、裏を返せば各キャラクターへの没入度が極めて高かったことを証明したと言えなくもない。
 確かにシステムやシナリオなどでいろいろと欠点はあった。しかし、それ以上にキャラの個性と状況設定に見合った台詞を喋らせることで直接心に訴えかけてくる演出の数々は他に類を見ない。システムにしても非常に使い勝手のいい環境ということには変わりない。お陰でゲーム中は登場人物の一挙手一投足に喜怒哀楽を思いっきり剥き出しにして感情移入しまくっていた。このようにキャラのやりとりに一喜一憂することが好きならば一度はプレイしてみるべきだろう。

 さらに、ゲームをクリアしたら是非ともいろんな人のレビューならびに感想を見てみるといい。それも出来る限り多くのところにアクセスした方がよりベターだ。
 実際に見てみると分かるけど、いろんな角度から褒めちぎっていたり、貶していたり、中には醒めた目で分析していたりすることが分かる。するとゲーム中と同じように共感したり反発したりして今までとは違う見方が出来るようになったりすることがある。自分と同じ考えはもちろん、正反対の意見にも一理あったりして「なるほどな」と感心することがたくさんあった。だからといって強制はしないけど、視野を広げてみたいという人は是非試してみてほしい。きっとこれまで見えなかったことが見えてくるようになるはずだから……。


【今回プレイしたゲーム】
タイトル対応機種 発売元発売年度
君が望む永遠win95、98、2000、me アージュ2001年


【参考資料】
『ゲーム』
タイトル対応機種 発売元発売年度
水夏win95、98、me サーカス2001年
ポートレイト win95、98、2000 テスラ2000年