覇王愛人
2004年3月2日作成
最終更新日 2004年5月31日

『はじめに』

 予め断っておこう、「覇王愛人(はおうあいれん)」は少女コミックであって、断じて青年向けでも、ましては成人(18禁)コミックではない。繰り返す、「覇王愛人」は少女コミックである。

 何故こんな書き出しになったのかというと、今回紹介するコミックが少女向けにしてはかなりアダルトで危険な香りが漂う内容だったからである。これがレディースコミック(女性向け青年コミック)であればこんな御託を並べることはしなかった。しかし、実際は少女向け雑誌に連載されていたことに、いささか疑問を感じたので、先のようなお断りを言わせていただいた。



『刺激が強すぎるのでは』

 そもそものきっかけは、【バーチャルネットアイドルちゆ12歳ポータル】で面白可笑しく紹介されていたのを見て興味を持ったからだ。それから一通り読んで思ったのは「大人が読む分には、一つのエンターテイメント作品として楽しめるが、本来の読者層である小中学生には、ちと刺激が強すぎるのではないか」と他人事ながらも心配してしまった。
 例えば、主人公秋野来実が事ある毎に辱めに遭うという、男なら大喜びのシチュエーションがあるが、はたして女の子も同じように楽しめるものだろうか。少女コミックにしては露骨な性描写も然ることながら、暴力表現(誘拐、監禁、レイプ、殺人)の過激さも同様に気になった。中にはあまりにも惨たらしい死に方をするキャラもいて、それが演出上必要だったとしても、他の表現でいくらでも誤魔化しようがあったと思う。
 とはいえ、これだけ長期で連載が続いた(全9巻)ということは、それ程問題にすることではないのだろう。今時の女の子なら「このくらいノープロブレム」と思っているかもしれず、単に個人的な杞憂に過ぎないのかもしれない。それでも、個人的な意見を言わせてもらえば「未成熟な子供に読ませるのは、時期尚早ではないか」というのが、率直な感想である。

『来実の魅力とは・・・』

 一体全体、黒龍は来実の何に惹かれたのだろうか。家事全般が得意ということを除けば、漫画の世界では何の変哲も無い普通の女の子という感じで、とてもではないが、香港マフィアを牛耳るボスが見初めてしまうなんて有り得ない。
 作品を通して考えると「女子高生にしては揉み応えのある胸であるとか、嫌がる割には感じる身体である」といった性的なものに、魅力を感じたというのだろうか。ていうか、黒龍や四天王の風龍、地龍が「来実のいやらしい肉体を貪りたい」みたいなことは口にしてても、彼女の内面に関しては、ほとんど言及されてないのも気になった。結局のところ「来実のような白い柔肌で、スタイルが良ければ誰でもいい」ということなのか。
 他に考えられることがあるとすれば、マフィアの人間にとって、来実のような純粋さというものは新鮮だったのかもしれない。闇の世界を生き延びる為に、一切の感情を殺してきた彼等からすれば、来実のような考え方は眩しすぎたのかもしれない。
 もっとも、普通の女子高生とマフィアのボスによる、感情の擦れ違いによって生じた溝は、なかなか埋まるものではない。本当は愛しているのに、身分の違いなどでなかなか思い通りにならない試練の連続は、なかなかどうして良く描けていたと思う。
 最後まで黒龍が来実を溺愛する確かな理由は判らなかったが、例え彼女を傷つけることになっても守り通すんだ、という黒龍の一途な気持ちはそれなりには伝わってきた。とはいえ、2人の行く末は前途多難しかいいようがない。身分の隔たりからくる価値観の相違、多岐に渡る黒龍の交流関係、裏社会で常に付きまとう死の恐怖、などがあるので、どう転んでも幸せな結末に至るとは思えない。一体どのような決着をつけるのか見物である。

『納得のいく結末ではなかった』

 マフィアのボスと凡庸な少女の恋という設定からして、一般的に考えられる幸せな結末には至らないだろうとは思っていた。実際のところ、最終9巻の帯でも触れている通り、ハッピーエンドではなかった(その割にカバーは白を基調にピンクの花模様で幸せを想起させるデザインになっていた)。それ自体は別に構わない。問題はそこに至るまでの過程に無理があったことにある。一応伏線は張られているが、それも取ってつけたようなもので、とてもではないが納得のいく結末ではなかった。
 納得いかないといえば、同じ作者の「快感フレーズ」の主人公雪村愛音は一度ではあるが、強姦されてしまうのに、来実は一度もなかった(未遂は何度もあったけど・・・)ことにも疑問を感じた。読み比べて思ったことは、愛音には異性に愛される理由もあれば、内面から滲み出る魅力もしっかりと描かれていた。それなのに、来実はいやらしい身体以外なんの魅力もないばかりか、マフィアという常に危険に晒される世界に身を置いていたのに、一度も穢される事がなかったことに、なんとも割り切れないもどかしさを感じた。どうせなら、来実自身にもそれ相応の報いを受けてもらいたかった。



『最後に・・・』

 いろいろと苦言を呈してきたが、なんだかんだいって興味深い内容ではあった。香港の街や学校はどんな様子であるとか、香港人の価値観といったような情報を、着実に作品へ反映させているところなんかは素直に凄いと思う。コミック作家として、作品作りに対する姿勢に関しては、ホントに頭が下がる。読み物としての面白さは「快感フレーズ」に2〜3歩及ばないものの、及第点を挙げられる内容だったとは思う。それだけに、この作品が少女コミックというカテゴリーで出版されてしまったことが、至極残念でならない。



【今回読んだコミック】
タイトル作者出版社 第1巻出版年度
覇王愛人 1〜9巻新條まゆ 小学館2002年


【参考資料】
タイトル作者出版社 第1巻出版年度
快感フレーズ 1〜17巻新條まゆ 小学館1997年


【参考サイト】
サイト名

バーチャルネットアイドル ちゆ12歳ポータル