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 幼い子の文学 著:瀬田貞二(中公新書)

 瀬田氏は幼児文学の翻訳者であり「J・R・R・トールキン」の諸作品の翻訳が有名であろうと思う。その氏が幼年文学の魅力を語った講話集である。 まず、最初の章で「いちばん年下の子が喜ぶお話のパターン」を挙げている。それが「行って帰る」と言う事で、例えば氏が翻訳したトールキンの作品でもそれが貫かれていると言う・・・なるほど「ホビットの冒険」、「指輪物語」でも最後は一番最初の場所、つまりは物語の始まったホビット庄に戻って来ている。
 私もこれは真理だなぁ〜と感心しました。 本書の中では様々な童話や絵本を例に出し、主人公が何がしかの冒険や奇妙な体験をするが必ずもと居た場所に戻ってくる事は、幼い子が最も受け入れやすい普遍的な土台なのではないか?とされていた。 アニメ等ではどうだろうか?例えば「魔法少女物」では魔法の力を手に入れた主人公は最終回にその力を失って、日常に戻って行く終わり方が一つのパターンであるし、ロボット物、ヒーロー物などの「悪が滅んで平和になる」という終わり方も穿った見方をすれば 平和に戻る>「行って帰る」と言えない事も無いと思う。 主人公が何か成長したり失敗したりと言う結果を引き立てる為には、元の場所に戻すという手法はうってつけ、まさに真理ですね。 他の章も、幼い子を揺さぶる物語とはどう言う物かという事について書かれており、結構面白く読ませてもらった。

 評価:A

 マインドコントロールとは何か 著:西田公昭(紀伊国屋書店)

 洗脳とかマインドコントロールについて調べようと思う場合、まず最初に書店で目にすると思われる著書は、これと「マインドコントロールの恐怖」(S・ハッサン著)であると思う。 まず基本として「人間は誰でもマインドコントロールされる恐れがある」という事実がある。 破壊的カルトのそういった攻撃から身を守る為には、マインドコントロールの手法などを知り、理解する事が最大の防御となるそうだ。 もしも、破壊的カルトの主催するセミナーとかに参加する事になったりした場合・・・何も知らなかったら確かに不安であろうと思う。 しかし、「不安」な状況をつくるのが自我を否定させる為の手段の一つだと知っていればそれも防げるという訳だ。

 評価:B

 

新幹線のぞみ白書 著:大朏博善 (新潮社)

 本書は94年の東海道新幹線開業30周年を記念して出版された新幹線史と、1992年に新幹線史上初のフルモデルチェンジ車両として導入された「300系電車のぞみ」開発の物語です。開業以来30年余、旧国鉄の赤字体質の煽りを受け、技術的な停滞を余儀なくされていた新幹線は民営化により「より多くの客を早く安全に送る」必要性が求められ、新型車両が開発される事になった。 パンタグラフ、モーター、車内装飾、なぜあの様なのっぺりして面白みに欠ける顔つきなのか? どれにも一つ一つ物語があり面白い。

 評価:B

 

 独創技術たちの苦闘 科学朝日・編 (朝日選書)

 1991から1年間「科学朝日」という雑誌での連載企画を纏めたのが本書であり、熾烈な新技術開発による競争で敗れ去った独創技術を紹介している。 「β方式VTR」「ロータリーエンジン」等、有名どころも良いが、面白かったのはLDに敗れた磁気ディスク方式VTRである「VHD」、コレなどはもはや忘れ去られているのでは無いだろうか?と思う。 かく言う私、恥ずかしながら高校時代にこの本でそれの存在を知った次第です。 本書で紹介された技術ですが2002年現在「浮体工法」等、重要性を見直された物も有りますがVHDに関しては今後も顧みられる事は無いだろうなぁ。

評価:B

 

昭和将棋史 著:大山康晴 (岩波新書・赤)

 棋士、大山康晴自身の歩み重ねてきた数々の激闘がつづられた昭和棋史とでも言いましょうか… 戦前の入門生時代の事〜昭和62年頃までを振り返りつつ今後の将棋界の展望を語っています。 古くは坂田三吉、木村義雄氏との事、…氏の5冠時代、大天才と言われた中村誠の出現等々、氏の対局について、それに臨んだ気迫や勝負時の駆け引きなどが読んでいて面白かった。 そして、最後に書かれている数行に思わず唸らされた。「数年後の将棋界(平成初頭期)は谷川浩司さんや中村修さん、羽生善治さんなどが競り合うだろう」と予測している点なのだが…これなんかはやはり慧眼で、本物は違うなぁ〜と、そんな事を考えました。

評価:A

 

 囲碁の世界 著:中山典之(岩波新書・黄)

 著者氏は現役の日本棋院の棋士(当時5段、現在6段)という事だが著作も多くなされている様ですね。・・・その氏が囲碁の入門書としてその歴史と、当時の囲碁事情を紹介されています。 特に囲碁の歴史に関する所は読みやすく簡潔に纏められていて面白かったと記憶している。
 また、どこかの漫画によく登場する本因坊秀策はもとより江戸時代最強の碁打ちと謳われた本因坊道策やらの江戸時代の囲碁事情を軽く知のるに良い本と思う。 実際、その江戸時代四家元にまつわるお話がある第四章が一番面白く感じた。

評価:A

 

 蒸気機関車 著:石井幸孝(中公新書)

 1872年に新橋−横浜間に日本最初の鉄道が開通した100年後、それを記念して我が国の蒸気機関車史をまとめたのが本書。 100年の間には様々な形式の機関車が導入され、日本の血脈の一端を担って来た。 輸入から国産化へ…「狭軌」という弱点を抱えたまま、機関車をより高性能化させる為に知恵を絞った技術的成果(動輪・ボイラー等)、これらの一つ一つが実に面白い。
 しかし、本書で語られて無いが日本の蒸気機関車は必ずしも世界の最高水準では無かったのもまた事実なので、それも頭に入れておいた方が良いだろう。 ま、本書を楽しむのには何の不都合も無いのだが…

評価:B

 

 ファミコンブームが崩壊する日 著:片山聖一・刑部澄徹 (秀和システムトレーディング)

 昭和61年の刊行、出せばミリオンセラーという時代が終わり、ソフト販売数が頭打ちになりつつあった時代に出されたのが本書で、時代的にはディスクシステム、初代ドラクエ等の発売がされた頃、スーパーマリオという怪物ソフトが起こしたブームの後、ファミコンブームに陰りが見え始めたと主張している。
 確かに機械性能の旧式化、ソフト乱造によるファン離れと、ブームの終焉を予想する材料には事欠かない。 だが、その後の歴史は…確かに本書から数年後、やや勢いが衰えた時期にPCエンジン、メガドライブという対抗機種が現れある程度のシェアを奪っており、この点で本書の予見は正しかった。 しかし、ドラクエII、IIIによるムーブメントの再点火、ソフト的な技術開発(スプライト等の表現法の改善)によってファミコンは延命し、当時850万台だった販売台数(国内)は現在までで1800万台を越える事となり、TVゲームを文化として根付かせた。 結局は映画、TV、音楽と並ぶエンターテインメント産業に成長した訳である。
 ま、当時の大人がどんな風にファミコンを理解していたかを感じる事が出来て面白かった。

評価:B

 

トールキン 「指輪物語」を創った男 著:マイケル・コーレン /井辻朱美・訳(原書房)

 児童幻想文学の作者、言語学者であるJ・R・R・トールキンの伝記。 若年層向けらしく、文字が大きく、難しい漢字にはルビが振ってあり、もっと難しい漢字は「ひらがな」で書かれている。 180ページもある本書だが、ほんの2時間で読み切ってしまった。 当然、内容も飛ぶような速さで進んでいく。
 南アフリカで生まれ、大学に入るまでがおよそ40ページ、結婚し教授になって「ホビット」を書き始めるまでが50ページ、それから次の「指輪物語」に関わる20年間をまた40ページ、それから残りで老後の暮らしを描くと言う具合である。
 まぁ、これを読む年代にとっての偉人伝は一種の物語であり、文章から醸し出されるトールキン氏のいかにもイギリス紳士らしい偏屈さも、昔話の様にテンポ良く進んでいくので読後の感覚は決して悪い物ではないだろうと思う。

評価:B

 

J・R・R・トールキン 或る伝記 著:ハンフリー・カーペンター/菅原啓州・訳(評論社)

 本書はトールキンの手紙、日記、友人・家族らの回想、出版社の資料と、およそ氏に関わったすべての資料を元に書かれた、言うなれば「公認の伝記」として知られる物の邦訳。
 一般的に伝記とは偉人伝であり、主人公である当人の立志伝である為に独特の華々しさを持つが、本書ではそれが全くと言って良いほど排除されており独特の雰囲気を感じる。 これは、トールキン氏が当時のごく普通の保守的な学識者階級に属した人物であったらしく、世界的な著作の作者として持ち上げられる華々しさを好まなかった事に敬意を表したのだと思われます。 実際、本書中で氏の自宅を訪れたファンの感想として、幻想世界を構築した作家とは思えない平凡な没個性的な生活ぶり(あくまでも当時の英国の平均的な生活水準ですが)は「思い出すのもおぞましい家に住んでいる」だそうだし、当人もファンの熱狂に触れ「私への嘆かわしい崇拝」と、皮肉まじりに語った事もあるそうだ。
 そうした平坦な描写の中での個人的な感想だが、氏の青年期、20世紀初頭のイギリス中産階級の知識層にとっての「大学」と言う閉社会の中での男子ばかりの独特な交友関係、時に羽目を外して暴動で演説をぶったり…と、若者特有の生活描写が逆に活き活きとして感じられて面白かった。
  また、老後の描写が人生の黄昏が穏やかに過ぎ去っていく風な流れ方で、しみじみとさせられた。

評価:A

 

 妖精物語の国へ 著:J・R・R・トールキン/杉山洋子・訳(ちくま文庫)

 児童文学、とりわけ「指輪物語」の著者として知られる氏による妖精についてのエッセイ。
ファンタジーとはこうあるべきと言う主張も含まれるが、とりわけ面白いのは妖精の定義について古今東西、妖精の登場する名著の扱いだろう。 曰く…シェイクスピアの名作を筆頭にして妖精の登場のさせ方は間違っており、妖精のイメージが矮小化されてしまったのだと嘆いている。 何が「矮小化」かと言うと、妖精の典型的なイメージである小さくて可憐で、頭にアンテナをつけて飛び交う姿の事、彼に言わせれば妖精が必ず小さいと決め付けるのもダメなのだそうな…
 目からうろこの落ちる主張で実に痛快でした。 他に対話劇、詩が一篇ずつ収録されています。

評価:B

 

 アポロとソユーズ 米ソ宇宙飛行士が明かした開発レースの真実
著:ディヴィッド・スコット+アレクセイ・レオーノフ 奥沢駿+鈴木律子/訳(ソニー・マガジンズ)

 米ソの輝かしい実績を誇る2人の宇宙飛行士の回想録を収めたのが本書のあらましで、お互いの少年時代から始まり、お互いに軍のパイロットとなり、如何にして宇宙飛行士になったか、そしてヴォストークやジェミニ、アポロと言った計画に参画していく経緯が描かれています。
 アメリカの飛行士の内情についても面白いのだが、やはり興味深いのはソヴィエト側の内情でした。 世界で最初に宇宙遊泳をしたレーノフが陥った危機、月飛行計画での訓練やロケット事故…それに、当時は謎の人物であったコロリョフに関する数々の記述などが見所ではないかと思う。 また、彼の亡き後で混乱したソビエトの宇宙計画について、後任者へのレオーノフのわだかまりなどが感じられる記述なども散見されて興味深かった。
 60〜70年代当時の有人宇宙飛行について、生の現場レベルの有様を垣間見られる著作としては、近年珍しい1冊であったと思います。 しかし、どこか空々しい謙遜地味たと言うか、無難にまとめようとする空気が感じられ、その辺りが異なった社会体制でライバル関係にあり、国家間競争に関わった人物による競作の限界なのかな?と思う。

評価:B

 

戦術と指揮 著:松村劭 (PHP文庫)

 「命令の与え方・集団の動かし方」の副題が付けられた本書では、まず複雑になりがちな「戦術」のイロハを要約して簡潔に解説し、後半では数々の「例題」を通じて読者に判断を促す体裁を取っている。 対象とする読者の敷居は低く…例題を重視する辺りは所謂ビジネス書である。 しかし本書で取り上げられている幾つもの「演習問題」の状況は「ファイアーエムブレム」や「大戦略」などSLGを頻繁にプレイした事のある人間なら何度も出会った事のある戦況ばかりであり、的確な情報分析眼を鍛え、確認することの出来る有意義な一冊とも思う。 また、文章は全体に明快で分かり易いのも万人向けと言える気がします。

評価:A

 

 将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情 著:国分隼人(新潮社)
 世界中の鉄道を乗り尽くす様な鉄道ファンの中で「最後の秘境」とされているのが北朝鮮だそうである。 この国は、かつて植民地時代に日本が張り巡らせた路線を基本とし、その後に作られた物を合わせると5235kmにも及ぶ鉄道網を持っている。 その知られざる実態に触れたのが本書であり、触れられている内容は実に新鮮なものだった。 独特のエネルギー政策によって80%を越えると言う驚くべき路線電化率。 反面、2000年代まで植民地時代の日本製蒸気機関車が現役だった事実もあれば、それが消えた理由が外貨獲得目的で中国に良質の鉄材として売られたと言う情けない話であったり、路線整備が全くされておらず、列車の平均速度が30km/hと言う嘘のような実態も触れられる。 実際、掲載されている写真の線路はグニャグニャだし、付録DVDで列車は駅に入って来るが如き鈍足で進んで行く。 全く「世界の秘境」と呼ぶに相応しい驚きの連続である。

評価:B

 

豪華客船スピード競争の物語 著:デニス・グリフィス/訳:粟田亨(成山堂書店)
 欧州・・・特に英国と米国を結ぶ、北大西洋航路は、かつて数多の豪華客船がスピードを争っていた。 それが、歴史上名高い「北大西洋ブルールーリボン」と呼ばれる競争であり、最速記録を打ち立ててブルーリボンホルダーとなる事は北大西洋航路に船を持つ数多くの船主にとって最高の栄誉であり夢だった。
 その歴史を、特にエンジン技術面から描いたのが本書。 万人向けの味付けになる様に書かれたのだろうと前書きを読む限りでは察せられるのだが、難解な用語も散見され、どちらかと言うと玄人向けの技術史になっている様に感じた。

評価:C

 

 地図で読む世界情勢 第1部 なぜ現在の世界はこうなったか /第2部 これから世界はどうなるか
著:ジャン=クリストフ・ヴィクトル ヴィルジニー・レッソン フランク・テタール フレデリク・レルヌー /訳:鳥取絹子(草思社)
 本書は最近流行の図解による海外情勢…あるいは歴史の解説本で、原典はフランスの衛星放送製作の10分間番組の放送開始10周年に刊行された物で、製作に携わっているのは本職の地政学者達である。
 フランスの刊行物なので、特に欧米とその周辺地域の話題が多く取り上げられており、日本人としては興味の範囲外の話題も多かった。 例を挙げればモルドバ、コロンビア、コートジボアールなどがそうである。 無論、最も話題になるであろう中東情勢やエネルギー事情に関してもページを割いている。 個々の事象に割かれているページ数は少なく、物足りなさは否めないのだが、世界の情勢は非常に複雑怪奇であり、何故そのような事態になっているか?が分からなければ、日々流されている海外のニュースに対して聞き流すだけで終わってしまう。 僅かでも取っ掛かりになる予備知識さえあれば、それら意味不明の海外ニュースも生きた情報源となり得る。 むしろ本書で情勢を知り、ほかの専門書籍などで調べて国際情勢への理解を深めていくのが正しい使い方ではないだろうか?

評価:A







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