戦史とか・・・(第2次大戦関連)

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アーロン収容所 著:会田雄次(中公新書)

 太平洋戦争時、最悪の戦場と言われた「ビルマ戦線」に著者はいた。終戦後、英軍に武装解除された著者らは捕虜収容所に入る。そこでの異常ともいえる経験の回想録である。 著者らの垣間見たイギリス人の正体とも言える振る舞いの数々には正直、驚かされる。例えば、彼らはイギリス人には愛想良く笑ったりはにかんだりするが、日本人相手には犬やブタを見る目をして無愛想だったという。著者ら捕虜はもとより、インド兵やビルマ人に対しても同じだという・・・つまり、有色人を人として見ていないが如くであり、その上、空気を吸う様に自然なやり方なのだそうだ。そういう優越心が染み付いた姿が当時の「本当のイギリス」だとしたら「西洋合理主義」とは語るに落ちた物だ。
 それを模範として信奉し、追い付こうとしていた戦前の日本の姿は滑稽だ。著者は言う「同じ道を歩もうとした日本が戦争に敗れたのは天譴(てんけい)であるかも知れない」と・・・。

評価:A

 

エムデンの戦い 著:R.K.ロックネル/難波清史・訳(朝日ソノラマ文庫・新戦史シリーズ)

 第一次世界大戦中にインド洋で通商破壊戦を行い、二十数隻に及ぶ商船を沈めたドイツ海軍の軽巡洋艦の戦いを描いた戦記小説。「無抵抗なら命までは取らない紳士的な行動」と賞賛されるシーマンシップが「エムデン」を伝説的なものに押し上げたと言われる。
 直接の戦果以上のエムデン(厳密にはエムデン以外に「ケーニヒスベルク」という軽巡もインド洋にいた)による襲撃戦の成果は、十数隻の連合軍艦隊をインド洋に釘付けにし、それ以上の数の商船の行動を拘束した点にある。大戦の中心は欧州にあったが、その一方の主役である英国のアキレス腱は「海上交易」にあり、通商破壊戦闘の帰趨は戦争のそれすら左右する大問題であった。故に大英帝国海軍はエムデンを血眼になって追い詰めた訳だが・・・戦略的に見て1隻の軽巡では沈められれば終わり、そこまでの効果は無かった。 しかし、これらの戦訓は後に第三帝国海軍による、より大規模な通商破壊戦の礎となった。

評価:B

 

最後の飛行艇 著:日辻常雄 (朝日ソノラマ文庫・新戦史シリーズ)

 太平洋戦争中、飛行艇隊の大艇搭乗員だった著者の日記を基にした回顧録。旧日本海軍はその地勢的、戦略上の必要性から大型飛行艇の開発に熱心であった。その集大成であり、当時の世界最高の性能を与えられたのがこの本の表紙にもなっている「二式大艇」である。高速度、長航続距離、強武装、重防御、すべてに高いバランスが取れており、他列強の同規模の飛行艇に追随を許す物は無かったと言っても良い。また、すべての日本軍用機中で唯一量産された四発機でもある。
 終章「最後の飛行艇」で著者、日辻少佐の操縦する二式大艇T−31号が終戦時に米軍の要請で香川県詫間基地から横浜に飛ぶ。集結する連合軍の大艦隊の間を低空飛行で抜け白波を立てて荒れる海面に二式大艇は見事に着水。日本人操縦による日本軍飛行艇の最後であった。この章は世界最高水準の技術の粋が敗戦によって失われる間際に見せた花であると思う。このT−31号は現在、東京の「船の科学館」に展示されている。

評価:B

 

先任将校 著:松永市郎(光人社NF文庫)

 太平洋戦争中、フィリピン沖で沈没した軍艦「名取」の生き残り195名が天文知識などを
駆使し、13日間かけてフィリピンにたどり着く過程を描いた物語。物語中で短艇隊の次席
将校であった著者の記述は淡々としてはいるが、示唆に富んでおり危急の事態に対しての
リーダーシップと集団の団結の重要さを示している。
 また、物語としても面白く読んでいて肩の凝らない不思議さがあった。

評価:A

 

思い出のネイビー・ブルー 著:松永市郎(光人社NF文庫)

 上の「先任将校」と同じ著者の、兵学校時代から平和時代にかけての海軍、あるいは
戦争での同期生の思い出を描いた随筆集。氏ら兵学68期生287名のうち、192名が
戦死されたという話だ。・・・自分の同級生が6割強も死ぬと言う現実が「戦争とはそう言う
物である」と雄弁に語っているように思う。実際、同期生についての思い出を書いた後
「その後、何処ここで戦死された」と、ことわられている個所が多く、その思いを察すると
感傷に堪えません。

評価:A

 

最後の関東軍 著:佐藤和正(光人社NF文庫)

 実際の戦史を元にした戦記小説。終戦間際、どさくさに紛れるように対日参戦したソビエト軍に果敢な抵抗を試みた国境守備隊の姿を描いているのだが、当時の陸軍が抱えていた問題や情勢に「負けるべくして負けた軍隊」の姿が垣間見える。確かにこの小説で取り上げられた戦闘は「帝国陸軍最後の勝利」であるのだが、自決の名の元に家族を皆殺しにする部隊や作戦実行の責任を果たさず、部隊指揮を放棄して撤退する上級司令部などを見ると滑稽さすら感じる。
 しかし、海軍に比して人気の薄い陸軍だが、なかなかどうして実際の陸軍歩兵は獅子奮迅の活躍をしている。太平洋の孤島はもとより満州の荒野でも、物量に勝る連合軍を相手に遥かに劣った装備で無視できない出血を強いているのだ!
 指揮官や参謀の無能さの批判は今に始まった事ではないが、この点はもっと評価して良いだろうと思う。 物語としては「中の下」と思うが、何より知る機会の無い史実を扱っている点は読むに値すると評価する。

評価:B

 

海上護衛戦 著:大井 篤(学研M文庫)

 著者は太平洋戦争時、海軍護衛総司令部参謀であった。日本が太平洋戦争をするにあたり当時の英米列強の経済封鎖(特に石油禁輸)への対抗策として南方の産油地帯の確保を必要とした。しかし、南方はあまりにも遠く、遠大な輸送路は護衛無しでの維持は不可能でありそれを怠った日本は次々と輸送船を沈められ、ついには敗戦を迎える。
 著者は当時の海軍が「決戦第一主義」しか頭に無い戦略性の無い軍隊であると堂々と批判し、戦争の敗因を「シーレーン戦略の欠如にある」と分析する。これが書かれたのが終戦からまもなく(昭和28年の刊行)の事であるのに頭が下がる。 内容も決して古びていない。「海洋戦略を知る為の定番」との評判であるが、その評価に間違い無しの良書。以前、朝日ソノラマから出版されていた物の再刊行。

評価:A

クルスク大戦車戦 著:青木基行 (学研歴史群像新書)

 1943年7月、ドイツがソビエトに侵攻して3回目の夏、クルスクという人口12万の
町の周辺で、独ソ両軍あわせて200万人の兵員と6000両の戦車が死闘を演じた。
 会戦前からドイツ軍元帥マンシュタインが「戦争での最終的な勝利は既に失われた」と
言っている様に、劣勢に置かれていたドイツ軍がなぜこの様な「避けるべき消耗戦」を
しなければならなかったのか? また、どの様に戦いが行われたのか?それを追った
戦史ドキュメントが本書である。
 本書の、資料を基に戦いを俯瞰し双方に公平な分析を試みている点には好感をもてる。

評価:A

 

 ゲッペルス 著:平井 正 (中公新書)

 自らを、周囲に「博士(ドクトル)」と呼ばせたナチスドイツの宣伝大臣。ナチ幹部でありながら常にスーツ姿で通し、ヒトラーの自殺時、殉死した唯一のナチ幹部。 そんな人物であ「パウル・ヨーゼフ・ゲッペルス」の日記を元に描かれた人物評を書いているのだが・・・気に入らない! 「ナチス擁護」は社会的タブーと言わんばかりに、事あるごとに「妄想狂」「極右崩れ」と罵倒する。 宣伝相としての彼の手腕は、新奇さ、その成果という点では明らかであるにも関わらず、偏りすぎてまともな人物評とはいえず残念だ。 歴史は双方に平等な評価をすべきであり、いたずらに人間性を酷評するのは愚かである。

 評価:C

 

20世紀最大の謀略 赤軍大粛清 著:ルドルフ・シュトレビンガー/守屋 純・訳(学研M文庫)

 1937年〜38年にスターリンが自らの反対勢力、過去に因縁のある人物と、それに繋がる人間を狂気とも言える執念でことごとく葬り去った事件が「赤軍大粛清」で、本書はこれを追ったドキュメントである。
 この惨劇で命を落とした人数は総数で20万人にのぼるそうだが、本書では粛清されたソビエト赤軍元帥の3人のひとり「ミハイル・トハチェフスキー」と、彼を陥れるべくドイツ親衛隊保安部(SD)のラインハルト・ハイドリヒが行った謀略の虚実を追っている。
 なぜかあまり興味を引かれなかったので読んでいて非常に疲れました。 もともとトハチェフスキー元帥の人となりが書いてあったら良いと思っていた程度の興味しか無かった為なのですが・・・

評価:C

 

 本土決戦 著:土門周平ほか (光人社NF文庫)

 太平洋戦争末期に日本軍が計画した本土防衛計画(決号作戦)と、連合軍(米軍)が準備を進めていた日本侵攻作戦(オリンピック、及びコロネット作戦)の詳細を比較し、評価を行うのが本書である。 実際にこの戦いが行われた場合、日本軍の主力となるのは「特攻」である。 この他「義勇軍」として婦女、老人在郷予備役の根こそぎ動員をもって戦力としなければならないという事実、これらの生む惨劇は実際に「沖縄戦」でもってどの様な有様だったかをみると・・・その効果は明らかである。 しかしながら「関東軍」等から掻き集めた有力な戦力も温存されている事と、策源地の条件がより優れている本土決戦においては沖縄よりは有力な抵抗が可能であり、連合軍にある程度の出血を強いる事が可能であったろうと本書では結論づけている。 何にせよ、米軍が作戦以前に「100万」の米国民の損害を恐れた事、日本の偽政者が早い時点での降伏を選択できた事実はわが国にとって僥倖であったと思う。

 評価:B

 

 海軍製鋼技術物語 著:堀川一男 (アグネ技術センター)

「大型特殊製鋼の製造技術の発展」との副題がつけられている本書は、日本の近代工業史において常に最高の技術を持ちながらも敗戦で資料が散逸し、失われた部分の多い海軍の製鋼技術の進展についてまとめた物です。 もし、現代技術で戦艦大和を復元しようしたとしましょう。 進歩した現代技術をもってすれば簡単に出来そうにも思えますが・・・現実はそう上手く行きません。なぜならば巨大な主砲、分厚い装甲などを鍛え、造る技術が既に失われているからです。「兵器は技術の粋を結集した物であるから日本刀と同じく文化遺産である」著者はそう序文で記している。そうした「失われた技術」について著者が次代に伝えたいと思われたのもうなずけます。
 ただ、技術用語が多く使われている為、読み物としては難解です。

 評価:C

 

 風船爆弾 著:鈴木俊平 (光人社NF文庫)

 本書はコンニャク糊で和紙を張り合わせた風船に爆弾を吊り下げた兵器による地味な作戦とその製作の実体を描いている。 アメリカ合衆国が対外戦争で大陸本土を攻撃された事例は、潜水艦による砲撃などの小規模な物(余談ですがこの攻撃も日本軍の所業)を除くと過去から現代に至るすべての歴史において「皆無」ですが・・・ただ一点「風船に爆弾をぶら下げて太平洋を横断させる」という馬鹿げた手段によってそれを成し遂げたのが我々「日本人」なのです。
 アメリカで確認されている落下事例は100余り、数カ所の山火事、死者はたった6人という微々たる戦果ではあるのですがこの事実が当時のアメリカを少なからず慌てさせた様です。 まあ、戦争は彼岸の事と平和を謳歌しつつ戦争していたのが当時の米本土であるなら当然の反応ですね。誰も太平洋の反対側から爆弾が飛んで来るなどと想像もしなかったのですから・・・

 評価:B

 

 伊58潜帰投せり 著:橋本似行 (朝日ソノラマ文庫・航空戦史シリーズ)

 太平洋戦争を潜水艦乗りとして闘いぬいた著者の手記です。 開戦から終戦まで・・・日本海軍潜水艦隊はその装備の劣弱さ、用兵の誤りによって、奮戦空しく次々と沈められていった。 その中で運良く生存した大型潜水艦の一隻が著者の指揮する「伊第58号」であった。 本書は開戦時から終戦まで、潜水艦隊の苦闘を描いているが・・・この書で最も生き生きした描写に感じたのは、やはり・・・氏自身の指揮する潜水艦「呂44号」「伊58号」に関する部分であった。 沖縄戦での苦闘、重巡インディアナポリス撃沈、終戦詔勅の発せられた時の艦内の雰囲気など・・・その場に居た者にしか分かり得ない雰囲気をよく漂わせていた描写と思う。

評価:B

 

 総員退艦せよ 著:R・F・ニューカム/亀田 正/訳(朝日ソノラマ文庫・航空戦史シリーズ)

米海軍の重巡洋艦インディアナポリスはアメリカ本土から原爆の部品を輸送した後、訓練の為レイテ沖へ航行中の1945年7月30日未明に、日本海軍の潜水艦「伊第58号」による雷撃で撃沈された。
 第二次世界大戦で失われた最後の大型艦であり、救助の遅れによって犠牲者は900名を越える。それが戦後大きな問題となって米国の世論を騒がせた。その顛末を本書は追う。 戦争で乗艦を失った事で軍法会議に掛けられた例は無いにも関わらず、世論の突き上げでその被告席に座る事となった(艦長の)米海軍マックベイ大佐、彼をはじめ、この事件で運命を狂わされた数人の米軍人達(最終的に名誉を回復されるのだが・・)彼らは実の所スケープゴートだった。 救助の遅れを招いたのは命令に関する組織的な欠陥だったのだ。 また、撃沈されたのが終戦間際だった事も不運の原因であろう。 

 評価:B

 

 なぐり込み艦隊 著:木俣滋郎 (朝日ソノラマ文庫・航空戦史シリーズ)

 昭和19年12月、フィリピン群島のレイテ島を根拠地に定めた米軍はミンドロ島への上陸を敢行、フィリピンの心臓部、ルソン島の喉元に刃を立てた。 昔日の実力を失い、10月のレイテでの大敗による厭戦ムードに包まれた日本海軍だったが、これに一矢報いるべく「礼号作戦」を実施、これを中心に描いた戦記小説が本書である。 作中前半は陸、海軍部隊による(惰性的な)航空特攻を描き、後半は作戦の主眼である「第2水雷戦隊」によるミンドロ島突入を描く。 結果として作戦は奇襲となって成功し、設営された飛行場は砲撃によって穴だらけにされた。
・・・しかし、この作戦の目的は「敵のミンドロ島からルソン島への上陸作戦を阻止する」という物だったが、実際の米軍は、この島は航空部隊の基地程度の認識であり上陸作戦は予定通りに実施された。 つまり、日本側の勘違いだったのである。また、戦果も期待外れに終わっていた。 それでも本書の最後は・・・敵が制空・海権を握る海域への小戦力による突入成功という事実が「傾きかけた日本海軍に自信と希望を与えた〜」と締めくくっている。

 

評価:B

欧州海戦記 著:木俣滋郎 (光人社NF文庫)

 WW1及び2で戦った22隻の(マイナー)艦艇の物語を集めたのが本書最大の特徴であろう。 英仏独伊など列強はもとよりスペイン、フィンランド、果てはタイの艦船までをも扱っており非常に興味深い物がある。
 そのタイ海軍の船、砲艦「トンブリ」と言うのですが・・・WW2においてタイ王国は日本との同盟関係にありました。 彼らは仏領インドシナとの国境問題にケリを付けるべく戦端を開き・・・実力の差はいかんともし難く、タイ艦隊はフランス艦隊に一蹴されトンブリは沈没します。 これが近代において日本以外の東洋の国が西洋と戦った唯一の近代海戦例という事です。
ちなみに2巻も出ており、そちらも砕氷艦、豆潜水艦などなどの地味な物語が取り上げられています。

 評価:B

 

最後の二式大艇 著:碇 義朗 (光人社NF文庫)

 前出の「最後の飛行艇」と似たタイトルですが、こちらは専ら国産飛行艇史といった感じに纏められています。 明治〜大正の国産化黎明期から九七式、二式という優秀機を生み出すまで・・・更には(これは私も初めて知ったのですが)戦後、二式大艇の設計を流用、再設計された新明和PS−1/US−1にまで触れてます。 興味深かったの二式大艇設計と同時期に進行していた、後に要求性能を満たせず失敗してしまう同じく海軍(設計は中島飛行機)の4発大攻(海軍の重爆撃機の呼び名、大型攻撃機の略)「深山」との比較です。 海軍は零戦の頃から設計要求が非常にシビアかつ総花的であり、この事が高性能な代わりに防御が脆弱という特徴の原因となっていたのですが・・・設計が常に成功する保証はないという実例がこの「深山」という訳です。 日本という技術後進国にとって4発の大型機と言うハードルがいかに高かったか?という事が偲ばれます。

 評価:B

 

壮絶!鉄底海峡 著:L・バーリィ/雨宮孝之・訳(朝日ソノラマ文庫・新戦史シリーズ)

 「鉄底海峡」というのはソロモン諸島のガダルカナル島の北に広がる海域の通称であり、太平洋戦争においてここで繰り広げられた激戦で沈んだ無数の船腹をさして「鉄底」と呼ばれる様になった。
 主人公はディック・フィッツアレンという若き英海軍少佐、物語は彼の指揮する駆逐艦がなす術なく撃沈される「ザボ島沖海戦」から始まる。 査問によって「判断力の不足、自信過剰」と判断された彼は艦長の座を失い観戦武官としてガダルカナルの戦いを眺めて行く事となります。 そうして乗り組んだ米巡洋艦隊の苦戦や失策を何度と無く垣間見、時には日本軍の捕虜になるなどの経験を経て彼は成長していきます。
 終章、彼は貴重な報告と経験を認められ、新造駆逐艦を与えられる。艦長就任の水兵への訓示シーンにおいてこれまでの体験からの教訓が語られ、次なる戦い(レイテ沖海戦)が今まさに始まろうかと言うシーンで2度と乗艦を失う事は無いであろうと言う安心感を読者に与えつつ物語は締めくくられる。
 英海軍の人物からの視点と言うのが非常に面白い。 彼の視点を取る事によって戦争当事者である日米両軍の描き方に公平さを感じたと言うのは持ち上げ過ぎだろうか? また、砲火によって切り裂かれていく艦艇の姿が淡白で、人の視点から見た現実の無常さや限界をよく表していた様にも思う。

評価:A

 

真珠湾の暁 著:佐藤大輔(徳間文庫)

 架空戦記作家として有名な著者による「真珠湾攻撃」をテーマにした歴史論(+短編小説2編)、 何故、日本機動部隊は真珠湾の石油タンク、工廠設備を襲撃しなかったのか? 機動兵器としての空母がいかに恐るべき槍であるか、エアパワーについての考察が為されています。
 厚さの薄い文庫本ながら要点が分かりやすく纏められており、真珠湾に関する疑問の一端が簡単に理解できる内容と言えるでしょう。 まぁ、有体に言うと…いつもの口調でいつもの様にバッサリ斬っており、論文と言う割にかなり砕けた文体で、読み進めるのが結構楽しいかと思う。
 また、巻末の短編小説は… 崩壊した某北で、残党のこもった小さな丘陵を巡る空しい戦いを描いた「幻虎の吼える丘」 江戸時代、とある峠の茶屋を営む老夫妻の出会った小さな事件に関する短編「葉桜」が収録されています。

評価:B

 

硫黄島 太平洋戦争死闘記 著:R・F・ニューカム/田中至・訳(光人社NF文庫)

 本書に語られるのは史上稀に見る戦いです。 何処からとも無く飛来する迫撃砲弾と機銃弾によって、ある者は腕を無くしたし、ある者は足を無くしてなお、後も後に続く兵を鼓舞し続けました。「進め!進め!」…当然、この世ならざる所へ旅だった者も尋常ならざる数だった。 しかし彼等は、米海兵隊はこの島を如何なる代価を払っても占領すると決意しており、星条旗をなびかせる日まで戦いを止めるつもりは毛頭無かった。 そして敵はその島中を要塞と化して待ち構え、1人10殺を合言葉に頑強な抵抗を続けます。 結果、総数2万人を数えた彼等、日本軍守備隊は27日間抵抗した後に全滅、米軍もそれを越える28000人の死傷者を出します。 だが、とにかくこの島は海兵隊の決意の通り、アメリカの(最も高価な)不動産となったのである。
 読んでいると、入念な取材と客観的な描写によって苦闘する海兵隊と死に向かいつつ善戦した日本守備隊の姿が浮び上がってきます。 アメリカ軍の戦果を誇張するでもなく、反戦を叫ぶでもない。 ただ名も無い兵士達の紡ぎあげた未曾有の歴史の1コマを読み取れる資料として価値ある1冊と思う。

評価:A

 

モリソンの太平洋海戦史 著:サミュエル・エリオット・モリソン/大谷内一夫・訳(光人社) 

 様々な戦記関係の書籍の他で、資料として取り上げられる事の多い名著「第2次世界大戦における米海軍作戦全史(全15巻)」、ここから太平洋戦争関連の記述だけを抜き出してまとめたのが本書です。
 太平洋戦争を解説した書籍は無数にあるが、その多くは著者が日本人であり日本側の資料を中心に置いてしまいがちで、様々な解釈において主張が偏る傾向にある。
 そこで本書なのだが、米海軍側の戦略についての解説書なので米軍側の思惑が事細かに書かれており、逆に日本軍については簡単にしか触れておらず細かな間違いも多い。(その辺は訳注されてます) そして勿論、敵側へは辛辣な表現も用いており、日本人として腹の立つ部分もあった。 しかしながら、これは日本側の著作での米軍観を考えると逆も有り得るのだと気付かされる点の1つであり、これ1つ取って見ても戦争を語るのに相互関係を欠いた視点では解釈を誤ると言う証明だろうと思う。 太平洋戦争の真相を知りたいと思うのなら判断材料として一読する価値はあるでしょう。
…あと、気になった点だが、一部の表現がカタカナ英語でなされている為に分かり難く感じた。 例えば「レスポンシビリティ」「アイロニー」あるいはもっと簡単な単語すら訳されずに使用される個所が散見されます。 訳者はこの程度の英単語なら意味が通じると考えたのかもしれないが、私の様に英語に不慣れな読者には不自由を強いる可能性もあろうと思う。 日本語に訳する行為は単にカタカナに直す事では無く、適切な単語を当てはめる点にあると思うので、その辺がキチッとしていればもうちょっと読み解き易かったのではなかろうか?

評価:B

 

 ルメイの焼夷電撃戦 参謀による分析報告 著:奥住喜重・日笠俊男
(岡山空襲資料センター・吉備人出版)

 表題の「ルメイ」とは1945年の1月にグアムの第21爆撃集団の司令官に就任して対日戦略爆撃を指揮したカーチス・E・ルメイ少将(当時)の事であり、それまで工場など軍事目標が主だった戦略爆撃を、無差別爆撃へと転換させた人物として知られています。 本書は彼の下で参謀を勤めたA・W・キスナー(あるいは彼を代表者とする幕僚達)がまとめた報告書を訳した物で、内容的には3月9日〜同19日までに行われた最初の「市街地域への攻撃」の結果報告です。
 興味を引いたのは米軍が日本本土侵入最大の障害を、軍事的な抵抗は問題にならず、ジェット気流と曇天がちな天候だと記していた部分だろうか。 旧日本軍の防空能力は低いとは思っていたが、そこまで低評価とは思わなかった。
 読み物としての面白さは全く無いが、資料として見ると軍事書類を一般人向けに翻訳した物としては非常に読み易い部類に入ると思います。 ヤード・ポンド法による記述へはメートル法による注釈がほぼ完璧に付けられ、巻末には簡単ながら用語解説も為されており、やもすると難解になりがちな専門用語を多用しない所に好感が持てます。

評価:B

 

 

 

 

 

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