読書録423(2004.08.11)
ソポクレス「アンティゴネ」
ソフォクレス
 『オイディプス王・アンティゴネ』(新潮文庫、1984年)

夏休みに入って名作・古典をとりあげています。アテネ・オリンピックも間近ということで、前回の『オイディプス王』(読書録422)に引き続きギリシャ悲劇です。

ソポクレス(前496頃-406年頃)はギリシアの悲劇作家。アイスキュロス(前525-456年)、エウリピデス(前484頃-406年頃)と並ぶ三大悲劇作家の一人。

本書は、福田恒存・訳。











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 以下、内容に関わりのある記述があります。未読の方はお気をつけください。
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▼あらすじ

テバイ王であったオイディプスが去った後、その遺子エテオクレスとポリュネイケス
とが成人するまで叔父のクレオンが摂政となった。成人後は兄弟が一年おきに王位に
ついていたのだが、エテオクレスが協定をやぶり、ポリュネイケスを追放した。

アルゴスに逃げたポリュネイケスはその王アドラストスを口説き、テバイに報復の遠
征軍を出すが、アルゴス軍は大敗する。この戦いでポリュネイケスはエテオクレスと
一騎打ちし、刺し違えて共に倒れた。

王位についたクレオンは祖国を裏切ったポリュネイケスを許せず、彼の死体をそのま
ま放置し、それを葬る者を死刑にするという触れを出した。

オイディプスの娘であり、エテオクレス、ポリュネイケスの妹であるアンティゴネ
は、ポリュネイケスを不憫に思い、兄を葬る。これを知ったクレオンは怒り、アン
ティゴネを罰する。

アンティゴネ、そして、クレオンの息子でアンティゴネの婚約者でもあるハイモン、
予言者テイレシアスもクレオンの発した法が神の法に反すると抗議し、クレオンも最
期には過ちを認めるが、時既に遅く、アンティゴネ、ハイモン、そしてクレオンの妻
でハイモンの母であるエウリュディケは自害してしまう。

≪叡智こそ仕合わせにとって何より大いなるもの、また神々に対する敬意は決して蔑
ろにしてはならぬ。傲れる人の昂ぶった言葉はやがては罰せられ、ようやく年をとる
に随い、叡智がどれほど大事なものかを身に沁みて悟るのだ≫(183-4頁)


▼感想

民間人を殺せと上官に命令されたらどうするか?上官命令に従って戦争犯罪を犯した
ものは責任を問われるか?国際人道法(戦時中の犯罪を裁く法)という分野ではこん
なことが問題となっています。

似たようなジレンマは、民間人も直面します。ナチス下においてユダヤ人を匿った
人、ナチスから逃れて国外に脱出しようとするユダヤ人に日本の通過ビザを発給した
杉原千畝は命がけでした。

道徳的な命令(自然法)と国家の命令(実定法)が異なる場合にどうするか?そんな
問題を鋭くえぐっているのがこの「アンティゴネ」です。アンティゴネは兄弟愛をあ
くまでも優先させ、クレオン王の命令に文字通り命がけで背きます。そしてその姿が
感動を呼ぶのです。(『縛られたプロメーテウス』(読書録194)もゼウスに服従す
ることを拒み通すという意味では似たような構図ですが、「自然法」と「実定法」の
矛盾という問題を正面から扱っているわけではありません)。

少し視点をずらすと、これはソクラテスの悪法問題とも関係します。ソクラテスは
「悪法も法だ」と言って、毒杯を飲みます。実定法を重視したわけですが、もしソク
ラテスがアンティゴネの立場であったらどのように行動したでしょうか。

アンティゴネになるか、ソクラテスになるかはケース・バイ・ケースでしょう。例え
ば、自分ひとりが罰せられるのであればソクラテスのように振舞うかもしれません。
反対に、他人のことが問題の場合にはアンティゴネになるかもしれません。もちろ
ん、悪法の度合いにもよるでしょう。

この関係でもう一人思い出すのが、アブラハムです。彼は神の命令に従って、息子イ
サクを生贄に差し出そうとしました。ソクラテスとの違いは、それが神の命令だった
という点です。これは神をどう定義するかによって解釈が分かれそうなので深入りせ
ず、関連性の指摘だけに止めておきます。

ちなみに、現在では上官命令の抗弁は認められない方向に向かっているそうです。ア
ンティゴネであることを求められるのですが、勇気づけられるのは、アンティゴネが
決してプロメテウスのような生まれながらの英雄ではない普通の人間だということで
す。

2004.08.11.


●関連読書録

【ソポクレス関係】
 http://tinyurl.com/633bh
【ギリシャ関係】
 http://tinyurl.com/53ljx


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