読書録344(2003.11.26)
天木直人『さらば外務省!私は小泉首相と売国官僚を許さない(講談社、2003年)

10月8日発売以来、6刷15万部というベストセラー。最初はあまり気にもとめなかったのですが、あちこちの書評でもとりあげられているので読んでみました。

天木直人(あまき・なおと)
 1947年、山口県生まれ。'69年、京都大学法学部中退、上級職として外務省入省。2001年2月〜2003年8月、駐レバノン日本国特命全権大使。8月末、外務省を実質的な解雇処分に。

▼本書の内容

《「拉致」「イラク」……小泉総理、あなたの外交政策は間違っている!外務省に
は、封印されたままの犯罪がある!キャリア官僚が、自分の首と引き替えに、すべて
を書いた驚愕の書!》(出版社紹介文より)

【第一章 無視された意見具申】
 「国連決議なしの対イラク攻撃は阻止すべきである」、「イラク攻撃が始まってし
まった今、外交によって戦争を終わらせるべき」という二度の意見具申を行い、その
後、退職通知を受けた経緯を語る。

【第二章 私はけっして小泉純一郎を許さない】
 小泉首相による、北朝鮮訪問と米国のイラク攻撃に対する支持表明は、外交史上に
大きな汚点を残した。前者は弱腰に過ぎ、後者はブッシュに追随し過ぎている。

【第三章 外務官僚と政治家たちの恥ずべき行状】
 竹内行夫、小和田恒、斉藤邦彦、栗山尚一、松永信雄、野上義二、岡本行夫、田中
均などの元・現外務官僚と川口外相に対する、個人的体験に基づいた批判が展開され
る。

【第四章 封印された外務省の犯罪】
 公金流用事件、対韓援助疑惑など、封印された外務省の犯罪を明かす。

【第五章 恐るべき外務官僚の世界】
 EAEC構想実現への顛末、国連安保理常任理事国入りを目指した一人相撲、無視され
た遺伝子スパイ事件、在日米軍の犯罪に無関心な日本政府、在外選挙制度の広報をめ
ぐる無意味な論争、中東大使会議での寂寥たる光景、レバノン首脳を騙し続けた日本
外交、など、外務官僚のおかしさを描く。

【第六章 こんな外務省はいらない】
 外務官僚は無駄な仕事に奔走し必要な仕事は行わない、外務官僚に重要な仕事はな
い、援助外交と文化外交は空洞化している、外交官たちは外交オンチである、ノン
キャリアはキャリア以上に出来が悪い、公邸料理人は課税されず、医務官は仕事がな
い、など、外務省の劣化を示す。

【第七章 さらば外務省】
 外務省は劣化、空洞化している。その主たる原因は、異常なまでの対米追随姿勢、
その方針に異を唱える者を排除しようとする歪んだ人事政策、一部の外務省幹部によ
る外務省全体の自由な雰囲気の剥奪にある。外務省の誰もがこの現状に矛盾を感じて
いるが、行動を起こそうとしない。外務省が生まれ変わるには、一度全面的に解体さ
れなければならない。
 外務省解体のためには、官僚システム全体の解体、自民党政権の解体が必要であ
る。つまり、政権交代が必要だ。そのためには国民も危機意識を持たなければならな
い。

【あとがき】
 本書では三つのことを訴えてきた。
(1)小泉首相ほど、政治と国民を舐めてかかった政治家はいない。
(2)浅薄、卑怯な小泉外交を諫めず、ただ小泉首相を喜ばすだけの外交に明け暮れる
外務官僚の劣化と空洞化の真実を明らかにする。
(3)改善するためには政権交代が必要である。


▼感想

小泉外交、外務省批判の書です。

読み始めから最後までの一貫した感想は、「外務省もおかしいのだろうけど、この天
木直人も相当おかしな人では?」というものでした。

まず出だしからおかしい。天木直人は二つの意見具申書を出したのですが、どちらも
日本の外交政策に反映されることはなかったと述べます。しかし、いち大使の意見が
政策に反映されないことは全然珍しくありません。したがって、無視されたからと
いって文句を言うのは天木直人の方がどうかしてます。

さらに、第三章の個人攻撃も品性を疑わせます。天木直人の主観がかなり入り込んだ
記述ですし、たとえそれが客観的事実であったとしても、上司が「ありがとう」と言
えなかったという話など、どこの社会でもあるような瑣末なことが多い。天木直人
は、大学在学中に外交官試験に受かってしまったため世間ズレしているのではない
か、はたまた、単なる個人的恨みや妬みなのではないか、と勘ぐりたくなりました。

天木直人の性格を疑わせる材料はまだあります。例えば、《最初からノンキャリアの
試験を受けるような奴は、歩留まりを見越した敗北者なのである》(209頁)という
ような表現です。第三章で天木直人は散々先輩を非難していますが、こういう文を読
むかぎり、彼自身、後輩やノンキャリアに慕われていたのか疑ってしまいます。

最後に、天木直人の外交感覚にも疑問を感じます。特に、小泉首相は《自ら再度訪朝
し金正日と直談判し、拉致問題の解決を図るべき》(35頁)と述べる箇所には唖然と
しました。交渉ごとでは場所は非常に重要な要素です。それを北朝鮮で行えなどと平
気で言う天木直人には基本的な外交感覚さえないのではないでしょうか。(註1)

加えて、天木直人は小泉政策が対米「追随」で間違っているということを前提に話を
進めますが、これはあまりに一面的な決めつけです。専門家の間でも意見の分かれて
いる問題であり、長年外交に携わってきた人間が、日本外交は対米「追随」であり誤
りだ、という面ばかり強調するのはどうかと思います。実際、天木直人は日米安保条
約の意義を考え直すべきだと述べているだけで、何の代替案も示せてません。

上のような理由もあり、僕にとって本書の信頼性はかなり低いものでした。外務省を
辞めさせられてからこういう本を出したということも、外務省に対する意趣返しとい
うような印象を抱かせます。

ただ一点、もし彼がここで述べているような「封印された外務省の犯罪」が本当にあ
るのであれば、これは徹底的に調査して欲しいものです。


▼終わりに

この本を読んで感じたのは、外務省もおかしいが、天木直人は相当おかしいというも
のでした。「おかしなもの」を「おかしい」と言っている人の方がなお「おかしい」
ということは特別珍しいことではありません。外務省批判をしていた田中真紀子もそ
うでした(読書録330331参照)。

天木直人は外務省の問題を暴くために本書を書いています。しかし、彼のような人が
大使にまでなったことこそが、外務省の問題を表しているのではないかとさえ感じま
した。最近、天木直人は一部のメディアで「識者」としていろいろとコメントを求め
られていますが、本書を読む限り、それらのメディアの良識も疑ってしまいます。

2003.11.26.


(註1) 2004年5月22日に、小泉首相は再訪朝しました。この再訪朝を僕がどう
 考えるか、読者の方からご質問があったので以下のようにお答えしました。

僕の解釈では、天木直人は「小泉首相は北朝鮮に乗り込んで、そこで直談判で
相手を説得すべき」という意味のことを述べています。しかし、相手の土俵に上って
なおかつ相手をその場で説得するというのは至難の業です。だから外交交渉は
交渉場所が重要な要素となりますし、下交渉も大切になります。それらの点をまっ
たく無視して「直談判すればいい」と軽く言っていることに「唖然とした」次第です。

さて、今回の小泉訪朝ですが、僕は一定の評価をしています。それは、前回もそう
ですが今回の訪朝も一定の筋道をつけて行なったからです。役人等の下交渉があ
り、その上で小泉首相が訪朝したからこそ、5人の拉致被害者家族が帰ってきたと
いうのが僕の理解です。これは天木直人が言うような「直談判」の成果ではありま
せん。

今回の小泉訪朝に関しては準備期間が短かったのではないかとの批判があり、
僕はそれも一理あると思います。このことは、直談判すれば解決するような問題で
はないということを示しています。

まとめますと、読書録344で述べたかったのは、軽々に首相が訪朝すれば解決する
と述べるのはおかしい、ということです。

(2004.06.03)



●関連読書録

【社会科学>政治>外交.国際問題】
 http://www6.plala.or.jp/Djehuti/NDC300.htm#319


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