・恋とは斯くも悩ましきもの・(乾貞治という男B)

 「サンクス、手塚。愛してるよ」
 「そういう軽口は大事な相手に言ってやれ」
 「固いな…こういうときは受け流すかノッてくれればいいのに」
 「悪かった。次からは善処しよう」
 「頼む。海堂も軽く相手にしてくれればいいのにな」
 「言ったのか?」
 「言いましたとも。鈍いからね、海堂は。ちょっとずつ慣れてもらわないと…」
 「逆効果じゃないのか?」
 「その通り。言ったらボディーブロー叩き込まれた」
 「ほう…いい反応だな。流石、海堂」
 「手塚…感心しないでくれ。仮にも先輩だよ…俺も」
 「慕われてて良かったじゃないか」
 「手荒いけどね」
 「結局ノロケか…」
 「努力してますから」
 「程々にな…」
 「海堂の1番はまだ手塚だからね。程々の努力じゃ歯が立たない」
 「乾。もう少し自分を過大評価してもいいと思うが」
 「そりゃムリでしょ。目の前にいる相手が出来過ぎクンだし」
 「…いやそうではない。海堂にとっての1番、の話だ」
 「海堂にとっての1番?それこそ俺じゃムリだよ」
 「お前も十分鈍いようだな。こんな冗談で済む戯れじゃなく、ちゃんと言ったらどうだ?」
 「海堂に?どんな顔して今更言うんだ?」
 「…拒絶されるのが怖いだけか」
 「手厳しいな。でも当たってるな、俺は臆病者だから」
 「海堂はお前が思ってるほど鈍くない。むしろ勘がいいほうだ。が、我慢強い上に潔癖だ。
  それに自分を過小評価しすぎる傾向はお前と大差ない。あまり待たせるのは可哀想だぞ」
 「待つ?海堂が?」
 「俺にはそう見えるが」
 「で、玉砕して来いと?」
 「いや、欲しいモノは奪って来い…という発破だが?」
 「俺のデータでは、まだ勝率が低すぎる」
 「そのデータ、役に立たんぞ」(きっぱり)
 「手塚…根拠は…」
 「後輩たちは、実戦の中で劇的に進化するからだ。メンタルな面までデータで推し量ろう
  とするのはお前の悪いクセだな」
 「ずいぶん良心的な解釈をするんだな…。やっぱり手塚は俺に甘い」
 「色恋沙汰に関しては野次馬なだけだ」
 「…無責任にけしかけてくれるのか。それも珍しいな」
 「たまには自分のデータに裏切られてみるのもいいだろう」
 「海堂に関してはデータなんか役に立たないとちゃんとわかってるさ。
  それでも俺がデータを頼ろうとするのは、臆病者の言い訳だ」
 「自覚があるのならいい」
 「はっきり答えを出されるのが怖い。情けない話だが俺は今でも」
 「冗談のままで済ませておきたい…か?」
 「ご明察。今、海堂に拒絶されたら自己嫌悪で沈みそうだ。気のせいならその方がいい」
 「それが本心なら、もう海堂に構うな。海堂がお前に依存してしまわないうちに」
 「依存?しないでしょ、俺ごときには」
 「それが過小評価だと言うんだ。海堂はいつもお前を目で追ってるだろう」
 「うわ…手塚……そんなに俺を喜ばせても何も出ないぞ」
 「別に。何か欲しくて言っているわけじゃない。意外に小心者のお前と健気な海堂が
  もどかしいだけだ。早くまとまれ」
 「まとまれ…って…玉砕したら責任はとってもらえるのかな?」
 「グズグズしてると、菊丸と不二あたりが余計なおせっかいをし始めるぞ。いいのか?」
 「…それは最悪だな…引っ掻き回されるだけだ」
 「態度はあからさまなクセに、はっきりさせないお前が悪い」
 「耳に痛いな…善処するよ」
 「大会に支障が出ないよう早めにな」
 「スマン、弱音を聞かせたかな。そろそろ行くよ。練習が始まる」
 「構わん。俺はお前のそういう所も好ましいと思っている」
 「俺も手塚が好きだよ」
 「だから海堂に言ってやれ…あ」
 「くく…やっぱりいきなりは変えられないか」
 「まだまだ…か?」
 「うん。でも手塚らしくていいんじゃないか?じゃあ、お先に」
                                       了  
  こんな色ボケ中学生って…(震)                        (→戻る