text:高橋大助

 小浜正寛(ボクデス)「フライング・ソーサーマン」は、思い切り楽しめる作品だった。何しろ痛快、そして、羨ましい。まず以て、身体の一部をアニメーションに置き換えてハイブリッドな存在になるというアイデア。前のシーンで、爆弾で吹き飛ばされながら、次のシーンでは、また追いかけっこを再開するキャラクターを可能にするアニメーションのバイタリティを、彼は身につけることになるのだ。どんな優れたダンサーにも不可能な〈超腕伸ばし〉や〈頭部爆破〉といった大技を炸裂させる彼は、ぼくのように、自己の身体の限界に対する恨みと劣等感とを抱きつつ、加えて、身体の〈鍛錬〉への強迫観念に囚われた者にとっては羨望の的に他ならない。
そんな彼が、一方では、人差し指一本の曲げ伸ばしで観客を集中させてしまう。小さな動きで集中させるこの工夫は、能や日本舞踊にしばしば見られる方法だが、この作品の中で用いられると、批評的に機能する側面があって新鮮だった。あなたは何を見てダンスと思うのか、と見る側の姿勢を問われているようにも思えたのだ。最後、カレーを早食いして「ダンシング・クイーン」をバックに勝ち名乗りを上げるのだが、その姿に大笑いしながら、どこか本気で讃えてしまう。ウケをねらいつつも、同時に、ダンスってなんなんだよ、挑発的に問いかけてもいる確信犯との共犯関係をこちらも愉しみにしたくなるからである。

photo:和久井比呂充













text:木村覚

 現実と空想、身体とイメージ、自分と異物を合体させ、その接合部分のむずむずする感覚を「ダンス」する、それがボクデス。

とりあえずこんな定義をしてみるとして、今回の、初の単独公演《ムニャムニャ君 ver.0》はタイトルが想像させるように、夢のなかでいろんなありえない「肉体の拡張」が次々起こる。 プログラム(INDEX)によれば、作品は全18のシーンに分かれていて、 ワン・アイデアを(退屈になる寸前で)どんどん重ねていく。そんな趣向。

ぼくはこれまで、「Shortcake」(ビデオ作品)など、小さな作品を単体で見ることはあったが、それに比べると今回のように続けざまに色々な作品が続いて出てくると説得力が増し、ボクデス・ワールドを十分体感できた、という満足感があった。(ただし問題点もないわけではない。映像と動きがずれていたり、「Shortcake」などの映像では、上の部分にスクリーンの段差ができてしまっていたり、脇に観客の影が出てしまったりと、多くの技術上の不備があったには、あった。ちなみに、第一回目公演の右側の影はぼくのだった!何かじゃまだなあと思って、不意に体を動かしたら「おれじゃんかさあ」ってごめんなさあい。)

例えば、「パンツ」を、立った状態からズボンを脱がずに裾から出して脱ぐ。「マネキンの足」を、舞台背後の白い衝立から二本逆さに突き出して、おどらせる。「バナナ」を食べて皮を床に落とす、ふたたびあらわれるとあらかじめ靴にはバナナが貼りついており、一歩出す毎にスッ転んでしまう。

あるいは、「魚の映像」に下半身が喰われると、なぜか魚から四本の足がにょきっとでてくる、とか。逆に「スペイシーな空間を駆ける羊」の映像に上半身が吸い込まれ、下半身だけ外に出ている、とか。

ボクデスの面白さは、身体の生理を意識させるところだろう。若いサラリーマン風「ダメ」っぽい風貌で、ボクデス(「ムニャムニャ君」)は、外からの異物にどんどんどんどん巻き込まれてゆく。その「巻かれる」感じ、翻弄されている感じが、「アッ、アッ」という焦っているような戸惑っているような声に混ざって、見ているこっちの身体がはらはらしてしまう。

両手、両腕、背中に付けた時計を見る仕草がダンスになる、とか。吊り皮をもって電車に乗っている男が、「もよお」してからだをくねくねさせる、とか。身体と異物(「もよお」だったら「突発事」とでも言おうか)との接触の「間」に転がっている動きを拾ってダンスにする。

映像との絡みでも、映像が身体を拡張しその拡張した「身体=映像」がさらにぐんぐん延びていったり、魚にのまれたりする時の、「ムズムズ」するような感覚、それが他の誰も与えることのできない唯一無二の「ボクデス体験」になっている。

ある設定をした時(ある異物と出会わせた時)、身体はどんな動きをするのか、それについて丁寧に身体に問いながら生まれるダンス、ということで言えば、ある指令を起点にして身体がどんな自由な暴走を始めるのかをダンスにしてみせる手塚夏子の試みとどこか繋がるところがある。

でも、ビデオ映像などかなり作り込んだ「演出」を施すボクデスの場合、身体は、しばしばコントの一部として演出のパーツにとどまっている。「とどまっている」というと突き抜けなければならないように思われるかも知れないが、このスタンスがボクデスならば、ひたすら「アイデア」を転がして、これからもイメージと身体の奇妙な出合いのシーンをどんどん展開していって欲しいデス。





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