想い
1
何時の頃からだろうか、この男を恋愛対象として認識してしまったのは・・・
それでいて、この想いをどうすることも出来ず持て余してしまっている。
玲子はチラッとブースに囲まれた専用部屋で仕事をしている上司の姿を見ると、密かにため息を吐いた。
「お前、また妹と上手くいってないのか?」
珍しく桐沢が昼食に誘ったかと思ったら、理由はこれだったのか。
ここ最近の自分の失態に、気付いていないとは思ってはいなかったが・・・
玲子は素知らぬ表情で返事をする。
「おかげさまで、すこぶる仲はいいです」
「じゃあ、他に悩みでもあるのか?」
「部下の悩み相談までやるとは・・・管理職も大変ですね」
玲子の嫌みったらしい口調に、桐沢は内心ため息を吐いた。
こういった口調で話す時は、間違いなく触れられて欲しくない事がある時だ。
とりあえず、わざと煽ってみるか・・・
桐沢は、警戒心あらわの玲子の姿を見て思った。
「お前、いいかげんにとっかえひっかえ男変えるの止めたらどうだ?」
その言葉に、玲子がむせる。
「ど・・・どう・・・」
「どうして知ってるんだって言いたいのか?」
桐沢の言葉に玲子が頷く。
「そんなもん、長くお前を見てれば嫌でもわかる」
「・・・最近は仕事が忙しくて、そんな暇はありませんよ。ていうか、プライベートまで関与するのやめてもらえませんか」
「誰が好き好んで、部下のプライベートにまで首を突っ込むか。余計な詮索されたくなければ、仕事に支障をきたすな。・・・ここ最近のお前の訓練は最悪だぞ。ささいなミスが連発してる。自分が一番分かってるだろう」
「・・・」
無言の玲子を見て、桐沢がため息を吐いた。
「・・・好きな男でも出来たか」
ボソッと呟いた桐沢を、動揺した玲子が見る。
「意外に本命には奥手だったのか・・・」
「チーフ、セクハラです」
「いっとくが、言ってたのは俺じゃなくて墨さんだぞ」
くえない笑みを浮かべた墨田の顔を思い出して、玲子はため息を吐いた。
「恋愛は個人の自由だがらな、口を挟むべきじゃないとは思ってたんだがな。任務中に支障が出る前に、気持ちの整理をつけろ。このままだと、いずれでかいミスをやらかすぞ」
「整理がつけれれば、こんなに悩みませんよ」
「・・・不倫じゃないだろうな」
「さぁ、どうでしょう・・・そういうチーフこそどうなんですか?」
「俺?」
「別居中の奥さん。いい加減、頭下げて戻ってきてもらったらどうです?」
「・・・先月、正式に離婚した」
「あ・・・すいません・・・」
「別に、謝まってもらわんでもいい。これで、俺もはれて独身だ」
その言葉に、玲子は内心の動揺を悟られぬよう、無表情で軽く肩を竦めた。
(聞くんじゃなかった・・・)
玲子はこの話題を桐沢にふったことを後悔した。
こんなことを聞いてしまったら、益々気持ちに整理が着かなくなる。
玲子は桐沢に見えない様に、拳を固く握り締めた。