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どうしても行きたい所は2ヶ所だけなので、そう急ぐ事は無い。
そう言う寛弥の言葉に甘える形で、かなりゆっくりとした出発となった。
事前に予約しておいたのは、宿とレンタカーのみ。
切符が取れる時刻に新幹線に乗り、京都に降り立つ。
2人にとって、何年か振りの地。
それぞれ複雑な胸中を、笑顔の下に隠していた。
「とりあえず、車を貰わない事には始まらんな」
和斗はそう呟くと、駅で待ち合わせをしているレンタカー屋の姿を探した。
程なく、派手な色合いのジャンバーを着込んだ男が視界に入った。
和斗は寛弥を伴ってその男に近寄る。男は、和斗達が待ち人だと確認すると車の鍵を手渡した。
教わった駐車場に目的の車を発見すると、和斗は荷物をトランクにしまった。
「で、何処へ行くんだ?」
車に乗り込むと、和斗は寛弥に聞いた。
「仁和寺と清水寺」
「・・・また、えらく反対方向だな・・・」
和斗の呟きに、え!?という表情で、寛弥は地図を見た。
「あ・・・」
和斗の言っている意味にようやく気づく。
「ごめん・・・何時も最初はそのコースだったから気がつかなかった・・・」
寛弥の何気ない言葉に、和斗は疑問を感じた。
「別にかまわないよ。お前の誕生日なんだ。行きたい所にいけばいい」
和斗は先程の疑問を奥底にしまい込むと、微笑んで車をスタートさせた。
暫くして、第一の目的地である。仁和寺に到着した。
中に足を踏み入れた2人は、静かに周りの景色や建物の様子を見ていた。
時々立ち止まっては一点を見つめる寛弥の様子を、和斗はそっと見守っていた。
建物の景色を通して、何処か遠くを見つめている彼女は一体何を思っているのだろうか。
「そろそろ、出ようか」
寛弥は和斗にそう言うと、建物を後にした。
「このまま清水寺に向かっていいのか?それとも、少し周りを見るか?」
和斗の言葉に、寛弥が静かに首を振る。
「このまま、向かって」
寛弥の言葉に、和斗が頷く。
途中、遅めの昼食をとって第2の目的地に向かった。
ゆっくりと、周りの景色を楽しみながら清水寺に向かう。
「よかった!間に合った・・・」
寛弥はそう言うと、和斗の腕を取って広い舞台を進んでいく。
夕方という時刻のせいか、人もまばらでゆっくりと景色を楽しむ事が出来る。
「・・・綺麗だな・・・」
和斗は寛弥の傍らに立つと、遥か彼方に広がる景色に見とれていた。
「綺麗でしょ」
寛弥が嬉しそうに言う。
自分が好きな景色を、大切な人も好きになってくれる嬉しさで彼女の心はいっぱいだった。
「空気がすんでいるから、夕焼けの色が鮮やかだな・・・」
「・・・広人が好きだったの・・・この景色・・・」
その言葉に、和斗は黙って視線を寛弥の横顔に向ける。
「だから俺をここに?」
「そう・・・今度はあなと見たかったから・・・気づいてた?」
寛弥が和斗の方を向く。
暫く見詰め合っていたが、ふと和斗が視線をそらして正面を向いた。
「薄々はね・・・もっとも、確信したのは仁和寺だったけど」
寛弥は不思議そうな顔で和斗を見た。
そんな彼女を、和斗は横目でちらりと見る。
「お前・・・仁和寺の景色を通して、違うものを見てただろ」
「やっぱりわかっちゃったか・・・あなたに隠し事はできないわね・・・」
「無理する必要はないんだぞ」
和斗の言葉に、寛弥が微笑む。
「別に無理はしてないわよ。ただ、もういいんじゃないかなって思っただけ。これからはあなたの事だけを考えて生きていっても。あなただってそう思ったから一緒に来てくれたんでしょ?」
和斗は驚いて寛弥の顔を見た。
「冴羽さんにね、相談に乗ってもらってたの。色々と・・・」
「僚に?」
「他に思いつかなかったから・・・まずかった?」
寛弥が心配そうな表情を浮かべる。
そんな寛弥の様子を見て、和斗は安心させるように微笑んだ。
「そろそろ、降りるか」
肌寒くなってきたのか、寛弥が微かに身震いするのを見て和斗がそう切り出した。
その提案に、寛弥も同意する。
和斗は彼女を促しながら、これから自分が彼女に話さなければならない事を思うと気が重くなった。