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「・・・で、結論は出たのか?」
 和斗は寛弥のベットの前にイスを持って来て座ると、そう切り出した。
「・・・どうして、今なの?」
「?」
「何で今になって急に結婚しようだなんて言ったの?」
「別に急な話というわけじゃないさ。ここ1年位、ずっと考えてた事だ」
「何故?」
「もうそろそろ、前に進んでもいいんじゃないかと思ってな」
「・・・」
 和斗は大きな溜め息をつくと、意を決して話し出した。
「昨日言った言葉に嘘はない。ずっとお前が好きだった。でもそれは、ずっと口に出してはいけない言葉だった。口に出してしまったら、お前を一生こんな世界に縛り付ける事になるから・・・それに、自信がなかった。お前を守ってやっていくだけの自信が・・・」
「今は出来たの?」
 寛弥の言葉に、和斗は静かに首を振った。
「わからん。だが・・・未来を望む気持はあると思う。・・・今はこれだけしか言えないけれど・・・」
 和斗の正直な言葉に、寛弥は胸が一杯になった。
 こんな事がなければ、恐らく一生聞く事のなかった言葉だ。
「一つだけ聞いていい?・・・もし、あたしが普通の体だったら・・・プロポーズしてた?」
 寛弥の言葉に、和斗は驚きで目を見開いた。
 そして優しく微笑む。
「してたよ。ただ・・・子供はあきらめてくれと頼んでた。女性には酷な話しかもしれんがな・・・俺は・・・今現在、自分の血を引く子供の存在を許す事が出来ない。どうしてもな」
「・・・・」
 和斗の言葉に、寛弥は悲しくなった。
 初めて聞く和斗の本音。
 不安でたまらなかった。こんな考えの男とこの先やっていけるのだろうか。
 けれども、少しの希望があるのなら賭けて見るしかない。
 和斗が言っていた未来を望む気持に・・・
「ただ、俺と一緒になるうえで、これだけは守ってもらいたい事がある」
 何?というように、寛弥は小首を傾げた。
「泣き喚くな、騒ぎ立てるな、隠し事をするな」
「何?それ・・・」
「つまり、泣き喚いて自分を見失うな。騒ぎ立てて場を混乱させるな。隠し事をして情報を少なくするなっていう意味だ。それさえ守ってくれれば、何があってもお前を助ける事ができるから」
「じゃぁ、あたしも約束してもらおうかしら。絶対これだけは守って欲しい事」
「浮気か?」 
 和斗の言葉に、寛弥が首を振った。
「違うわよ。それはあたりまえの事。あたしが守って欲しい事は一つだけ。内緒で出かけないで」
「何だよ、それ・・・」
 今度は和斗が聞いた。
「あなたが何処に居るかぐらいは把握しておきたいのよ。あなたの職業柄、何時何処で何があるか分からないから」
 和斗は分かったというように頷くと、寛弥の左手に指輪をはめた。
 寛弥は薬指にはまっているダイヤの指輪を嬉しそうに眺めながら、和斗に言った。
「結婚指輪はオーダーメイドにしてね。世界で一つしかない指輪にしたいから」
「以外とロマンチストだな」
「だって、そうすれば指輪で誰か分かるじゃない?」
「・・・犬か俺は・・・」
 和斗の心底嫌そうな呟きに、寛弥はクスクスと笑った。


「・・・いい話しなのよね・・・」
 かずえから話しを聞いた後、一同口を揃えて言った。
「でもね、教授ったら何時もこの話しの締めくくりにこう言うのよ。いい話しなんだけど、前半部分のインパクトが強すぎて、笑い話にしかならないって」
「しかし、あの和斗さんが顔面にトイレットペーパー・・・」
 麗香はもうダメと言うように笑い出した。
「教授ったら、あたしとミックに言うのよ!プロポーズだけは時と場所を選べって!!」
 かずえの言葉に、我慢の限界だった他の女性陣が一斉に笑い出した。


 その後、彼女達がどういう仕打ちを受けたかは分からない。
 が・・・二度とこの話は話題に登らなくなった事だけは確かである。