スイーパーの休日 2

一つのテーブルを囲む様に、男が3人真剣な表情で座り込んでいる。
その周囲だけ、不穏な空気が漂ってくる。
各々の手には、トランプが握られていた。
「フォールト」
 金髪の男が恨めしげに、自分の手札を見る。
「俺も」
 他の二人も、同じ様に呟いた。
「次、誰が親だ?」
 金髪の男の言葉に、眼鏡を掛けた男が手を挙げた。
「ゲッ!?和斗かよ!!」
 他のメンバーの言葉に、保科和斗は眉を寄せた。
「俺が親だと、何か文句があるのか?」
「い〜や、別に」
 和斗の言葉に、二人が素知らぬ顔で惚ける。
(奴が親って事は・・・そろそろ勝負をつけなきゃな・・・)
 二人は同じ事を思うと、配られたカードを手に取った。


「何してるの?あの連中」
 店に来た野上冴子は、カウンター席に着くなりこの店の女主人美樹に尋ねた。
「見て分からない?ポーカーよ」
 美樹ではなく、冴子の左隣に座っている香が答えた。
「それは、分かるけど・・・何かポーカーって雰囲気じゃなくない?」
 そう言って、冴子はテーブルの団体に顎をしゃくった。
「それはそうでしょ。賭けポーカーだもの」
 興味なさそうに、右隣に座っている寛弥が答えた。
「一体、何を賭けてるの?」
 冴子の質問に、寛弥が答える。
「ビデオテープ」
「はぁ!?」
 その言葉に、冴子が怪訝な顔をした。
 まぁ・・・和斗が絡んでいるのなら、如何わしい類の物ではなさそうだ。
「一体、何のビデオテープ?」
 冴子が興味津々で誰ともなしに聞いた。
 僚やミックが、そういう類のテープ以外でこんなにも真剣になっている内容が気になってしかたがなかったのだ。
「サッカーの試合」
 冴子の疑問に、寛弥が答える。
 その言葉に、冴子が目をパチクリする。
 一体何だってそんな物を・・・と言った表情である。
「家の人が前々から探していた試合のビデオを、偶然香さんが持っててね・・・格安で譲ってくれって交渉してたのよ」
「いくら?」
「5万」
「5万!?たかがビデオテープに!!」
 冴子がビックリした声を挙げた。
「あたしはいいって言ったのよ。あたしも知らなかった位だもの・・・そんなテープがあったなんて・・・」
 香の言葉に、冴子が不思議そうな顔をした。
「知らなかったって・・・」
「あたしも、和に・・・」
 そう言った瞬間、相棒に鋭い視線で睨まれ、香が慌てて言い直す。
「・・・和斗さんに言われて、荷物を探したらあったのよ」
「探したらって・・・」
 そう言葉を続けようとした冴子は、その意味に気が付いてハッとした。
「ひょっとして・・・槙村の?」
 その言葉に、香が微笑んで頷いた。
 それならば、和斗が5万という法外な値段をつけたのも納得できた。
「・・・冴子さん・・・今、自分も参戦しようかって考えたでしょ・・・」
 寛弥が小声で冴子に聞いた。
 内心の動揺を隠しつつ、冴子はニッコリと微笑んでかわす。
「和斗は分かるけど・・・なんで僚やミックが絡んでるの?」
 その質問に、答えにくそうに誰もが視線をそらす。
「・・・試合の映っている、チアガールが目当てなのよ・・・」
 香は穴があったら入りたいというような口調で、頭を抱え込んだ。
 冴子も香と同じで、頭を抱え込んだ。
「それにしても・・・やけに長いわね・・・」
 冴子がため息混じりに呟いた。
「それはそうよ。もう34回もやってるもの」 
 美樹の言葉に、冴子がギョッとした。
「34回!?」
「そ。各自イカサマすること10回。共謀で騙す事3回・・・」
 美樹が呆れた口調で言った。
「・・・それで、今34回目なのね・・・」
 冴子は何とも言えない表情で、しみじみと呟いた。
「世も平和よね・・・」
 その言葉に、香の表情が引きつる。
 平和=仕事が無いからである。
「その平和で粘られちゃぁ、こっちが迷惑だ!!」
 巨体の海坊主が文句を言う。
「でも、もう決着がつくんじゃない?」
 寛弥がそう言って、テーブルを見る。
 つられて、冴子達も視線を向けた。

「よっしゃ!!俺の勝ちだ〜フルハウスだ!!」
 ミックが喜々として、手札を見せびらかした。
「フッ、甘いな。俺はロイヤルストレートフラッシュだ!!」
 そう言って、僚も手札を見せびらかす。
 二人が睨みあっている姿を呆れて眺めつつ、和斗が手札をテーブルに見えるように置いた。
「キングのフォーカード。俺の勝ちだな」
 その瞬間、海坊主の爆笑が店内に響き渡った。
「キングのフォーカードを親が出してるのに、何でお前らにその手札がでるかな!!浅はかな考えをするから、イカサマがばれるんだ!!策士策に溺れるだな!!」
 バンバンカウンターを叩いて、海坊主が笑い転げる。
「コーヒー頂戴」
 和斗はさっさとトランプを片付けると、寛弥の隣に腰を降ろした。
 美樹が和斗の目の前に、コーヒーを出す。
「なぁ、ダビングしてくれない?」
 ミックが、和斗に手を合わせて頼み込んだ。
「5万で編集、3万でダビング。どうする?」
「乗った、5万で編集!!」
 ミックは財布からお金を取り出すと、バンと和斗の目の前に置いた。
「毎度あり〜」
 和斗はミックから渡された、お札を数える。
「お前はどうする?僚」
 恨めしそうに、財布の中身を見ている僚に、和斗が聞いた。
「3万ダビング!!」
 僚が意を決したように、和斗の前に差し出した。
 その様子に、香がギョッとして僚に怒鳴る。
「あんた!!そんなに払って後で泣きついても、あたしは知らないわよ!!」
 香の言葉に、僚が飄々とした顔で言う。
「いいも〜ん。そしたら、僚ちゃんツケで飲むも〜ん!!」
 香の追求が来る前にそう言うと、僚は慌てて店を出て行った。
 その後をミックが追いかける。
「たっく、あいつは・・・」
 怒り心頭といった様子の香に、和斗が先程僚から巻き上げた金を渡した。
「ほい、香。やる」
 差し出されたお金に、香が驚いて首を横に振った。
「貰っときなさいよ、香さん。どうせ、冴羽さんツケで飲み歩くに決まってるんだから」
 寛弥の言葉に、香はそれもそうよね・・・と呟いて、素直に受取った。
「あっ!伝言版、見に行かなきゃ」
 香は腕時計を見ると、慌てて店を後にした。
「さてと。そろそろ、俺らも行くか」
 和斗が寛弥に、声をかける。

「・・・しかし・・・僚の奴、まさか自分の金が還元されてるとは夢にも思ってないだろうな・・・」
 海坊主の言葉に、冴子が呟いた。
「真の商売上手は、実は香さんかもね・・・」
 その言葉に、美樹と海坊主が揃って首を縦に振った。


「ねぇ・・・本当に、冴羽さんとミックがインチキしたの?」
 寛弥の言葉に、和斗はニヤリと微笑むと、持っていたトランプを手渡した。
 不思議そうな顔をしながらも、寛弥は夫が渡したトランプを調べた。
 ありふれた、何処にでもあるトランプである。
「ちょ・・・これ!!スペードのキングとハートのクイーンが2枚あるじゃない!?」
 数が多いのを疑問に思った寛弥は、あまりの驚きに、和斗の腕を掴んで引き寄せた。
 そんな寛弥の様子を、和斗が面白そうに見ていた。
「じゃぁ、本当にイカサマしてたのはあなたなの!?」
 寛弥の言葉に、和斗がニッコリと微笑んだ。
「・・・何で、冴羽さん達は追及してこなかったの?」
「だって、ミックはあきらかにイカサマしてたんだから、言えないだろ?それに、僚は自分がイカサマでその手札を出したと思い込んでるから、追求してこない」
「え!?冴羽さんのロイヤルストレートフラッシュって・・・」
 寛弥が驚いた顔をした。
「そ。正真正銘、あいつが自分の運で出したの。昔から、かなりの割合で出すんだよ。だから、先手を打たせてもらったの」
「・・・」
「言っとくけど、この事僚達にしゃべったら、後でおし置きだからね。寛弥ちゃん♪」
 得意そうに勝ち取ったビデオテープを弄んで、自分に微笑む姿を見ながら、寛弥は内心思った。
(ごめんね、冴羽さん・・・この事は誰にも言えないわ・・・私も自分の身が可愛いの・・・)
 その表情は、心から真の不幸な男に同情していた。