質問

「突然ですが、質問です。お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?」
 娘の唐突な質問に、母親である女性は目を見開いて驚いた表情を浮かべた。
「一体どうしたのよ、幸香<さちか>?」
 もう直ぐ10歳になろうかという年頃の娘の大人びた質問の意図を探るように、母親は暫し娘の顔を見つめた。
「質問に答えてよ!お母さん!!」
 一向に答えを返さない母親にしびれをきらした幸香が頬を膨らませて抗議する。
 そんな可愛らしい仕草に微笑みながら、母親は考え込んだ。
「・・・そうねぇ・・・優しいところかしら?」
 母親のありきたりな答えに、幸香はあからさまに失望の表情を浮かべた。
 そんな娘の様子に苦笑しながらも、夕食の後片付けに専念する。
「じゃぁ、お母さんとお父さんは何時出会ったの?」
「なぁに?今日は質問ばかりね」
「そうよ。今日はあたしがお母さんに質問するんだから」
 そう言って手を引いて、リビングのソファーに座らせる。
「お手柔らかにね」
 そう言って娘に微笑む。
 そろそろそう言う事を気にする年頃なのだろう。
「お母さんがあなたのお父さんに会ったのは、高校生の頃よ」
「出会った時から、結婚するって思ってたの?」
「まさか!?出会いは最悪だったのよ!!だって、昔からああだったもの。あんたの父親は!!」
 妙に力説する母親に、幸香はガックリとうなだれた。
 日頃の父親の行いが次々と脳裏を過ぎる。
 確かに、あの行動なら出会いが最悪というのも頷ける。
「じゃぁ、何でお母さんはお父さんと結婚したのよ・・・」
 年の割には妙に大人びた物言いをする我が子の頭を撫でながら、母親は微笑んだ。
 優しい笑みを浮かべながら、何処か遠くを見つめている母親の表情は娘から見ても思わずドキリとするほど綺麗だった。
「・・・似てたのよ。兄貴に・・・」
「それって・・・前に話してくれた、あたしが生まれる前に亡くなったって言う伯父さんの事?」
「そうよ。あなたの伯父さんとお父さんは、親友だったの」
「え!?じゃぁ、伯父さんもパパと同じ性格・・・」
 その瞬間、凄い殺気を目の前の母親から感じて、幸香は慌てて訂正した。
「そ・・・そんなわけないよね・・・」
 幸香の言葉を聞いて、殺気も薄らぐ。
(今、マジで危なかった・・・)
 幸香は胸を撫で下ろすと、新たな質問をした。
「じゃぁ、お母さんは何時からお父さんの事を好きになったの?」
「さぁ・・・何時からかしら・・・。気が付いたら、かけがえの無い存在になってたのよ。でも、どうしてそんな事を聞くの?」
 不思議そうな顔をする母親に、幸香は内心冷や汗をかいた。
 まさか、友人同士の賭けに負けたからなんて言えない。
 言ったら最後、この母親にどんなお仕置きをされるか・・・。
「まさかとは思うけど・・・あんた、美慈<みちか>ちゃんと変な事を考えてないでしょうね?」
 鋭い母親の指摘に、幸香は質問の主旨を変えた。
「ねぇ、あたしの名前ってお父さんが考えたのよね・・・」
「そうよ。あいつにしては、まともな名前をつけたなと感心してるのよ」
「何で、お父さんはこの名前にしたんだろう?」
「さぁ・・・お母さんも知らないのよ。お父さんに聞いてもちっとも教えてくれないし・・・」
「ねぇ、ミックおじさんに聞いたけど・・・お父さんがあたしの名前を決める時、和斗おじさんが徹夜で度突き倒して監視してたって聞いたんだけど・・・本当?」
 娘の言葉に母親が引きつった笑みを浮かべた。
「あんたのお父さんに好き勝手に決めさせたら、あけみとかみゆきとか・・・今までにお父さんが付き合ってた女性の名前になってたわね・・・あなた」
「・・・すっごくおじさんに感謝する・・・」
 娘の言葉に、母親も乾いた笑いを浮かべた。
「確かに、和にいにはお母さんも感謝してるわ・・・」
 母親は脳裏に娘がおじさんと呼ぶ唯一の男の顔を思い浮かべて感謝した。
 それと同時に、トラブルメーカーコンビの一人である彼の娘の顔が浮かんだ。
 我が家と同じ質問責めに、彼女の母親も合っているのかと思うと、同情を禁じえない。
 もっとも、彼女は自分よりも上手に娘をあしらう方法を知っているのだろうが・・・。

「何だ?まだ起きてるのか、幸香!?」
 入り口から聞こえた声に、二人は驚いてドアの方を見た。
「お父さん!?」
 幸香は叫ぶと、嬉しそうに父親に走りよって抱きついた。
 父親も、嬉しそうに我が子を抱きしめる。
「ほら、もう寝ろ」
 父親はそう言うと、幸香の頭をくしゃっと撫でた。
「は〜い」
 幸香は片手を挙げて返事をすると、自分の部屋に帰っていった。


「お帰りなさい。僚」
「ただいま。香」
 僚はそっと香を抱きしめる。
「幸香の奴、こんな遅くまで何してたんだ?」
 不思議そうに聞く僚に、香は可笑しそうに笑った。
「そう言う事が気になる年頃なのよ」
「何だよ、それ・・・」
 僚は不満げな顔で、香の頬に自分の頬を寄せる。
 そして、香の耳元で意地悪く囁いた。
「ところで香ちゃん、一体何時から俺の事愛してたの?」
 僚の言葉に、香がギョッとして振り向いた。
「あ・・・あんた、何時から居たのよ!!」
 真っ赤になって叫ぶ香に、僚はしれっとした顔で答える。
「幸香の『お母さんは何時からお父さんの事を好きになったの?』あたりから」
 その言葉に、香の体が恥ずかしさと怒りで震える。
「だったら、さっさと出てこんか!!」
 そう言って、さっと僚の腕から逃れるとハンマーを出す体制に入る。
 僚は慌てて香の腕を掴んで拘束すると、香の唇に口付ける。
 完璧に体制を崩された香は、なすすべもなく再び僚の腕の中に収まった。
 その時、タイミングよくリビングのドアが開いた。
「どうした?幸香」
 僚が娘の姿を見て、問い掛ける。
「お父さんに言い忘れてた事があって」
 娘の言葉に、僚が不思議そうな顔をする。
「あたし、今度は弟がいいな〜お父さん」
 僚はニヤリと笑うと、親指を立てて了承の意を伝える。
 それを見た幸香は、今度こそ安心して部屋に帰っていった。

後の冴羽家のリビングでは―――――
「そんな事、約束しんでいい〜!!」
 と言う、香の絶叫が聞こえたとか聞こえなかったとか・・・




言い訳:ふとした思いつきで書いてしまったブツ。
     初お目見えです。我が家のお子様軍団。
     きっと色々悪戯してるんだろうな・・・
     初の試みなんで、感想いただけると嬉しいです。