春の心と春を呼ぶ人
「ねぇ僚見て!桜!!」
香は嬉しそうに目の前の樹を指差した。
僚が香の指をたどって見上げると、無数のつぼみがついている枝の中で一房だけ
花が咲いていた。
香は手を下ろすと、花が咲いているその一点をじっと見つめていた。
僚はその横顔を盗み見る。
(嬉しそうな顔しやがって・・・)
僚は嬉しそうに微笑む香の顔を見てそう思った。
依頼が無事片付いた事も影響しているのだろう。
視線を香と同じ方向に向けると、僚は今回の依頼人の笑顔を思い出していた。
最初に出会った時、彼女は恐怖で強張った表情をしていた。
むろん、笑顔など見せるはずなく、終始何かに怯えた様子だった。
それが、香と会話をするようになってから少しずつ笑うようになってきた。
恐らく、香の優しい心が彼女の恐怖を溶かしていったのだろう。
僚は香の横顔を見ながら思っていた。
香の心は春の心。
冬に積もった雪を少しずつ溶かしながら春になるのと同じように、恐怖という冬を積もらせた依頼人の心を優しさと包容力という春で少しずつ溶かしていく。
そんな春の心を持っている女性・・・
一方、香も今回の依頼人の事を考えていた。
最初に会った時は、怯えた表情をしていた彼女が、別れる時は晴れやかな笑顔を浮べていた。
それが香には嬉しかった。
「僚は春を呼ぶ人だね・・・冬の様に凍った依頼人の心に、幸せという春を呼ぶ人」
香の言葉に、僚は驚いて目を見張った。
「そんなたいそれたもんじゃないさ」
僚の自嘲気味な呟きに、香は視線を桜の樹に向けたまま優しく微笑んだ。
「ううん。僚は春を呼ぶ人。だって、あたしの心にも春を呼んでくれたから」
その言葉を聞いたとたん、僚は破顔した。
「ばぁ〜か」
うれしそうな・・・それでいて何処か照れた表情をして笑っている男。
その男のとなりで、優しく微笑みながら桜を見ている女。
そんなカップッルを、すぐそこまで来ている春が暖かく見守っていた。
イラスト:りん様
駄文 :蒼海
管理人談
りんさんから頂いたイラストを見た瞬間、頭の中に浮かんだ桜の映像。それを元に、話を作って見ました。
りんさま、こんなんで
よろしいでしょうか?