
プレゼント〜for 僚
「男の人って、何が欲しいんだろう?」
香の呟きに、話しを聞いていた寛弥の手が止まった。
「冴羽さん?」
寛弥は微笑むと、止まっていた手を動かして紅茶を入れる。
差し出された紅茶の入ったカップを手に取りながら、香は恥ずかしそうに顔を赤らめると微かに頷いた。
そんな香の様子を、寛弥は微笑ましく見ていた。
そういえば、もうすぐ誕生日だ。
「ねぇ、和兄なら何を欲しがるかな」
香の問い掛けに、寛弥の体が止まった。
夫の顔を思い浮かべながら、無謀としか言い様の無い問い掛けに溜め息をついた。
どうせ言う事は決まっている。
僚とて同じ事を言うだろうが、それに気付かない所が香の魅力でもある。
「どうしたの?」
寛弥の動揺を気付かないのか、香が不思議そうに聞いた。
何でもないというように首を振ると、寛弥は微笑んだ。
「本人に聞いてみたら?丁度帰って来たみたいだし」
その言葉と同時に、和斗が部屋に入ってきた。
「いらっしゃい」
香の姿をリビングに見ると、和斗は微笑んで歓迎した。
「おじゃましてます」
香も微笑んで和斗に挨拶する。
そんな2人を優しく見ながら、寛弥は和斗にも紅茶を差し出した。
「香さんがあなたに聞きたい事があるらしいわよ」
寛弥の言葉に、和斗の片眉が上がる。
「かわいい妹が大事な人にあげるプレゼントの参考に、あなたの欲しい物が知りたいらしいわよ」
寛弥は面白そうな表情を浮べると和斗の反応を見た。
彼が香の事を実の妹の様に可愛がっている事は周知の事実である。
和斗はその言葉に、頭を抱え込んだ。
よもや、二日にわたってこの話題を聞くとは思わなかったのだ。
事情を知っているはずの寛弥に、思わず恨みがましい視線を向ける。
「誕生日プレゼント?誰の!?」
和斗は驚いた表情で呼び出した男の顔を見た。
「俺の。もうすぐ誕生日だもん。何かちょうだい」
僚はおいしそうにグラスの酒を口に運ぶ。
「何で俺が」
和斗は訝しげな顔を浮べる。
「かわいい弟分に、誕生日プレゼントくらい用意してくれてもいいだろ」
「かわいい弟ね・・・右向けって言ったら左向くような奴がか?」
「子憎たらしい奴ほどかわいいっていうだろ」
僚の言葉に、和斗が苦笑する。
自分で言うような言葉ではない。
「なら、今日の酒代でチャラだな」
その言葉に、僚が焦る。
「ちょっ・・・!普通プレゼントって言ったら、物だろ!?」
「形ばかりがプレゼントじゃないだろ?」
「・・・それはそうだが・・・」
その様子に、和斗が目を細める。
「お前、ミックと何か賭けただろ。飲み代か?それとも、秘蔵のモッコリビデオか?」
(ス・・・スルドイ!)
僚の体がビクリと反応する。
確かにミックと賭けをした。僚が自分の誕生日に和斗からプレゼントをせしめられたら、入手困難な秘蔵のモッコリビデオをツテを使って取り寄せてくれる事になっていた。
だが、それを本人に知られてはこの賭けは成立しなくなる。
何せこの男は3度の飯より自分を苛めることが好きなのだ。
既に趣味と言っていいくらいに・・・
「・・・まぁ、いい。何か考えとくよ」
和斗は意地悪い笑みを浮べた。
「ねぇ、和兄なら何が欲しい?」
香の声に、和斗が我に帰る。
「俺の欲しい物ね・・・そりゃ、やっぱり・・・」
そう言う和斗の後頭部に、輪ゴムがヒットする。
和斗は後頭部をさすりながら、背後にいる寛弥を見た。
よからぬ事を吹き込むなという視線が、恐いくらいに突き刺さる。
「・・・その気持だけで充分だと思うよ」
和斗は微笑むと、最初に言おうとした言葉を飲み込んだ。
それでも納得いかない顔を浮べた香を見ると、和斗は立ち上がると食器棚に向かった。
何やらごそごそとしているかと思ったら、手に一本の酒のボトルを持ってきた。
「やるよ、これ。僚と一緒に飲みな」
そう言って、ボトルを香に手渡す。
「それ、いいわよ香さん!誕生日に大事な人と二人きりで飲むなんて、すてきじゃない」
寛弥が手を合わせて、嬉しそうに香に言った。
「そうかな・・・」
香が半信半疑で手元のボトルを見る。
「そうよ、冴羽さんもきっと喜ぶわよ!渋るようなら、上目遣いでお願いしてみたら?絶対OKしてくれるわよ」
寛弥の言葉に、和斗の顔が引きつる。
惚れた女のその表情に、逆らえる男はいない。
(よけいな事を吹き込んでいるのはどっちなんだか・・・)
和斗はそう思うと、そっと溜め息をついた。