プレゼント〜for 香
「女性の好きそうな物って何だと思う?」
(何日か前にも似たような台詞を聞いたわね・・・)
そう思いながら、恥ずかしそうにごにょごにょと呟く目の前の男を、聞き役の女性は眺めていた。
「俺、そういうのよく分からないしさ・・・」
「そうよね・・・」
女性の言葉に、男がじと目で言う。
「・・・今すんごいバカにされたような気がしたんだけど・・・」
「あたし何か言った?」
女性が不思議そうに言った。どうやら無意識に出た言葉らしい。
いいんだけどね・・・と小声で男は呟く。
「香さんに?」
女性の言葉に、男が頷く。
「彼女に直接聞いてみたら?」
「それが出来たら相談なんかしないって」
「冴羽さん、香さんに誕生日に何を貰ったの?それを考えて返せばいいんじゃない?」
「・・・」
冴羽僚は盛大な溜め息をついた。
自分が貰ったプレゼントをそっくり返したら・・・むこう1ヶ月は絶対口を聞いては貰えないだろう。彼女の性格からして・・・
「そういう事を安全に相談出来る人って寛弥ちゃんしか思い浮かばなくってさ・・・」
その言葉に、寛弥は何故指定された場所が何時ものキャッツ・アイじゃないのか理解した。
(あそこでこの話題を出したら、瞬く間に新宿中に噂が広まるわね・・・)
寛弥は噂好きの常連メンバーの顔を思い浮かべた。もちろん、その中にはマスター夫婦も入っている。
「冴羽さんが、指輪をプレゼント出来る甲斐性の持ち主なら、香さんも苦労しないのに・・・」
寛弥の溜め息まじりの声に、僚の顔が引きつる。
「・・・それ、どういう意味?」
「気にしないで。独り言だから」
寛弥は何でもないというようにコーヒーを飲む。
「・・・そう・・・」
僚も複雑な表情だ。本人を目の前にして言う事ではないと思う。
「服でもプレゼントしたら?」
その言葉に、僚は口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。
「口紅でもいいんじゃない?」
追い討ちをかけるような言葉に、僚がむせた。
男が女にその2点を贈る意味――――
「・・・面白がってるでしょ」
「分かる?だって、こんな冴羽さんが見られるなんて貴重だもの。楽しまなきゃ」
寛弥はにっこりと微笑んだ。
対して、僚は頭を抱え込んだ。
さすがはあの男が選んだ女性なだけある。というより、むしろあの男が育てたといった方が正しいかもしれない。
「冴羽さんから贈られた物なら何でも喜ぶわよ、香さんは。何だったら、明日付き合いましょうか?プレゼント探し」
少々からかい過ぎたかと思い、寛弥がそう提案した。
願ってもない言葉に、僚が飛びつく。
「本当に?・・・何か裏があるんじゃない?」
「何にもないわよ。ただ、相談に乗ってもらいたい事があるのよ」
そう言って話し出す寛弥の言葉を、僚は優しい表情で聞いていた。
「・・・で、何でお前がここに居るんだ?」
待ち合わせの場所に現れた男を見て、僚は憮然とした表情を浮べた。
対する男の顔も不機嫌そうだ。
「しかたがないだろう。寛弥の奴が急な仕事で行かれないから、変わりに頼むって連絡をよこしたんだから」
「だったら、俺一人でも良かったんだよ」
僚は寛弥の夫である、和斗に文句を言う。
「俺もそう言ったんだが・・・お前一人に選ばせると香が可哀想なんだと。お前、余程センスの無い人間だって思われてるみたいだぞ」
「・・・・」
僚が何ともいえない顔をする。
確かに、自分でもセンスがあるのかと問われれば首を傾げざるおえないが・・・そこまで他人に思われているかと思うと、複雑な心境である。
「で、具体的に何を贈るのか考えたのか?」
和斗は、とりあえず歩く事を僚に促すとそう聞いた。
その言葉に、僚が肩を竦める。
「それを決めてもらおうと思ったんじゃないか」
和斗は盛大な溜め息をついた。
この男に意思というものは存在するのだろうか。
「そういえば・・・お前、香には何貰ったんだ?」
和斗の言葉に、僚が思い出したかのように叫んだ。
「そうだ!!お前が何で香の酔った姿を知ってたんだよ!!」
何の事だ?というように、和斗が眉をしかめた。
「お前の意味深な電話だ!電話!!」
「あぁ・・・あれ。その様子から察するに、どうやらお前の都合のいい様になったみたいだな」
その言葉に、僚がグッと言葉を飲み込んだ。
「俺はてっきり暴れまくる事を期待してたんだが・・・そうか・・・」
一人納得している和斗を不信な目で僚が見ている。
すると、和斗は僚に向かってニヤリと笑った。
「そりゃ・・・気合もはいるわな」
その言葉に、自らが墓穴を掘った事を僚は悟った。
「言っとくが、ミックには絶対言うなよ」
「あたりまえだろうが」
和斗はバカかこいつはという目で僚を見た。
ミックに知れた日には、どういう行動に出るか分かりきっている。
こと香の心配事に関して、この2人の意見は見事に一致する。
「悪いが、俺の用事を先に済ませてもいいか?」
和斗は腕時計で時間を確認すると、僚に尋ねた。
「まぁ、俺は明日までに何とかすればいいからな」
僚の了承を聞くと、和斗は連れ立って目的の場所へ向かった。
和斗が連れて来たのは、一軒の老舗の宝石店だった。
こういった場所にあまり慣れていない僚を見て、和斗が声をかける。
「お前、外で待ってるのもいいが・・・余計目立つぞ」
その言葉に、僚が慌てて和斗の後をついて店の中に入る。
あらかじめ、注文がしてあったのだろう。
和斗はためらいもなく、目的の店員に向かって声をかけた。
「お待ちしておりました」
店員も、和斗の姿を見て微笑む。
和斗が店員と話をしている間、僚は何となくぶらぶらと店内を見ていた。
めったに入ることのない宝石店に興味をもったからだ。
ふと、僚の目がある一点で止まった。
水色と白色のコントラストの石に目を惹かれたからだ。
僚は店員に見せて貰うよう頼んだ。
「珍しいデザインだな」
何時の間にか僚の背後に来ていた和斗が、僚の手元を覗き込んだ。
ブルートパーズとムーンストーンが半々で丸い形を作っている。
シリーズ物らしく、色々なアクセサリーの形があった。
僚が見ているのは、その中の一つであるネックレスだった。
「そこで指輪を選ばないあたり、香の苦労が伺えるよな・・・」
和斗の呟きに、いささかムッとした口調で僚が言う。
「いやだね〜妹を溺愛する兄みたいな発言」
「なら、溺愛する兄の様に毎晩電話してやろうか?」
和斗が意地の悪い笑みを浮べる。
「いやいや。理解のあるお兄さんで」
僚が慌てて訂正した。
この男の事だ。やると言ったら本当に遣りかねない。
それも、絶妙なタイミングで。
「どうせ、ガラにも無いと思ってるんだろ」
僚の何処か拗ねたような口調に、和斗が苦笑する。
「いいんじゃない?似合うと思うよ、それ」
「そうか?」
和斗の言葉に、僚は決心して店員にそのネックレスを包んで貰った。