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「ただいま・・・」
やや疲れ気味の声をしながら、和斗はリビングに足を向けた。
弟を見つけた慧は、下ろしてくれと言わんばかりに足をバタつかせる。
和斗は抱いていた慧を下ろすと、リビングのラグに座ってテレビを見ている信<シン>に話かけた。
「ただいま、信」
目線を合わせて話しかける和斗を、信は不思議そうな顔で見る。
その様子を見て、和斗の背に冷たい汗が流れる。
「信、パパよ」
キッチンで晩御飯の準備をしていた寛弥が、リビングに足を運んだ。
母親の言葉に考えるかのように、信はジッと和斗の顔を見る。
そんな息子の様子を見ながら、寛弥は面白そうに和斗に言った。
「そういえば、さっき信に『もうすぐパパが帰ってくるわよ』って言ったら、こんな反応してたわね・・・」
「・・・マジ・・・?」
引きつった表情を浮かべる和斗に、寛弥は真面目な顔で頷いた。
(僚、殺す・・・)
内心、帰れなかった原因を作った男に恨みをぶつけると、和斗は再度信に話しかけた。
「信〜思い出してくれよ・・・」
情けない表情を浮かべる和斗を見ていた信の眉根が寄る。
泣き出す一歩手前の表情に、寛弥が慌てて抱き上げようと傍に寄った。
その時、慧が和斗を呼んだ。
「パ・・・パ」
その言葉に、信はジッと慧を見た。
次いで和斗を見て暫らくした後、こぼれんばかりの笑顔を浮かべると和斗に抱きついた。
「パパ!!」
「やっと思い出してくれたか・・・」
しみじみと呟いて信を抱きしめる和斗の様子に、寛弥が苦笑する。
そして、無駄とは知りつつも釘を刺しておく。
「思い出してもらえたんだから、冴羽さんに八つ当たりするのだけは止めなさいよ」
その言葉に、和斗は残念な表情をありありと浮かべた。
「久しぶりにあなたと一緒にお風呂に入ったものだから、二人ともはしゃぎ疲れてすんなり寝てくれたわ」
「お疲れさん」
そう言って、プライベート・ルームに入ってきた寛弥を和斗が労う。
「冴羽さんはどうしてるの?」
となりに座った寛弥は、気になって仕方がなかった事を和斗に聞いた。
「ただいま、パスワードを考え中」
その言葉に、寛弥はキョトンとした表情を浮かべた。
「何?教えてあげなかったの、パスワード」
「何でそこまでしなきゃならんのよ。第一、教えたら香がした意味が無いだろうが」
「まぁ、それはそうだけど・・・」
どこか釈然としないものを感じながら、寛弥は和斗の様子を盗み見た。
「・・・ひょっとして・・・言いたくなかったとか・・・」
その言葉に、和斗が微かに反応した。
「・・・お前なら、言えるか?」
和斗の問いに、寛弥も黙り込む。
「・・・言えるわけないわよね・・・あなたがあたしに言ってくれた言葉だなんて・・・」
「こういうことは、自力で考えつかないと意味がないものだからね」
「それもそうよね」
自分の言葉に納得した寛弥を見て、和斗は苦笑した。
結局、寛弥自身も同じ立場になったら言えないと思い至ったらしい。
「なに?」
自分を見つめる和斗の視線に気がついて、寛弥は不思議そうな顔をした。
「いや、なんでもない。疲れたからもう休むわ」
「あ、そうよね。ごめん、気がつかなくって」
慌ててそう言う寛弥に、和斗は気にするなと言うように微笑んだ。
寝室の入り口に向かった和斗だが、立ち止まると、何か言いたげに寛弥を見た。
「どうかした?」
寛弥は心配そうな表情で立ちあがった。
「前にさ、お前・・・言ったよな・・・」
唐突に話し出した和斗に、寛弥は首を傾げた。
和斗が何の事を言っているのか、思いつかないのだ。
「お腹の子を妊娠した時にさ、言ったよな。皆で幸せになろうみたいなこと」
「あぁ・・・うん」
「あの時さ、俺・・・気の利いた事・・・何一つ言ってやれなかったからさ。今、言おうと思って」
「別にいいのよ。あれはあたしの正直な気持ちだもの。何かを言ってほしいとか、やってほしいなんて全然思ってないから」
その言葉に、和斗はもどかしそうに頭を掻いた。
「あ・・・違う。そうじゃない。言わなきゃじゃなくて、言いたいんだ・・・」
そう言って、和斗は盛大なため息を吐いた。
「ワリィ。何言ってるかわかんねぇよな。・・・自分でもそう思うんだから、聞いてる方はなおさらだよな・・・」
普段めったに自分を語ろうとしない男が、自分の為に必死になって何か言おうとしている姿に、寛弥は涙ぐんだ。
「ありがとう。俺に、あの子達を・・・家族をあたえてくれた事・・・」
そう言って、和斗は寛弥の前に来ると跪いた。
その行為に、驚いて寛弥が目を見開く。
「考えてみたらさ、俺・・・お前にまともにプロポーズしてなかっただろ」
「ちょ・・・やだ!?やめてよ!!そういう事、あたしが苦手なの知ってるでしょ!?」
突然の事にパニックになっている寛弥を見て、和斗は必死に口元を押さえて笑いをこらえている。
「何よ!」
そんな和斗の姿に、寛弥が泣き笑いの表情を浮かべる。
「幸せになろう。俺とお前と子供達と皆でさ」
その言葉に、寛弥の目からこらえていた涙が頬を伝った。
「・・・なんで急にそんな事・・・」
「急じゃないよ。前から言わなきゃと思ってたんだ。こんなどうしようもない男の傍にさ、酷い目ばかり合わせてきたのに・・・それでも一緒に居てくれただろ。どんな時でも変わらずに・・・悪魔だ化け物だって言われ続けてきたけどさ、お前が居てくれたから・・・俺はギリギリで踏みとどまれたんだと思う。感謝してもしたりないよ」
感極まって抱きついてきた寛弥を、和斗は大事そうに支えた。
「俺の子供時代はろくなもんじゃなかった。そのせいで、自分自身の事はどうでもいいみたいな感じで生きる事をあきらめていた。でも、今こうしてここに俺が居るのは・・・お前が居てくれたからだ。ありがとう・・・救ってくれて」
和斗はそっと寛弥の顔を起こすと、微笑んで言った。
[Hereafter, will you be beside of me?」
思いがけない言葉に、寛弥はしばし呆然とした。
「The answer?」
真剣な表情で自分を見ている和斗に、寛弥は微笑んで言った。
「あたしね、あなたと一緒になる時に決めたの。誰に何を言われても、あなたの為に生きようって」
その言葉に、和斗の目が驚きで見開かれる。
「Of course. ..there is will being not to part even if it compares, and you become disgusted..」
その答えに和斗は嬉しそうに微笑むと、そっと口付けた。