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「結局、残ったのは俺達2人か・・・」
感慨深そうに周りを見ながら、五嶋は和斗に近づいて言った。
その言葉に、和斗もまた感慨深そうに周りを見た。
2人につられたのか、僚達もまた周りの景色を見る。
「ねぇ、一体何処なの?ここ・・・」
香が不思議そうに和斗に聞く。
「全ての始まりの場所」
その言葉に、香は不思議そうな顔をした。
そんな香の顔を見て、和斗は寂しそうな笑みを浮かべた。
「もう一度ここで・・・ただその約束の為だけにこの場所を残しておいたが・・・それも必要なくなったかな・・・」
そう言って空を見上げる和斗の腕に、寛弥がそっと手を添えた。
「処分するの?ここ・・・」
「・・・嫌、処分出来ないよ。簡単に処分するには・・・ここはあまりにも人の思いが強すぎる」
「そうだな・・・簡単には処分出来ないな・・・この場所は、ここに居た人達の最後の希望だからな・・・」
「最後の希望?」
五嶋の言葉に、ミックは不思議そうな顔をした。
こんな何も無い地に、何の希望があるのだろうかと思ったのだろう。
それは僚達も同じだった。
「ここを去る人達が、必ず交わす約束があってね。もし、自分の力ではどうする事も出来ない自体に見舞われたらこの地に足を運べと・・・心の底から助けが必要だと願ったら・・・必ず手は差し伸べられると・・・まぁ、合言葉みたいなものかな」
「何か、変わった約束だな・・・まるで、戦地に赴く際にかける言葉みたいじゃないか・・・」
僚の言葉に、五嶋が苦笑した。
「戦地か・・・ある意味、ここに居た人間達にとっては、まさにそんな心境だっただろうね・・・ここを離れるという事は・・・」
思いもかけない五嶋の言葉に、香は驚いて目を見張った。
「ここは、俺達が育った場所だよ。今は跡形もないけどね」
「俺達・・・?」
五嶋の言葉に違和感を感じて、香は聞き返した。
普通、育った場所というのに複数形は使わないはずである。
そんな香の疑問に、和斗が答える。
「俺達、全員孤児なんだよ」
その言葉に、ミックとシンディーの目が驚きで見開かれる。
もちろん、香も例外ではない。
「え!?だって、和兄って・・・両親・・・?」
パニックになりかかっている香に、和斗は穏やかな笑みを浮かべた。
「養子先がここの園長夫妻だったんだよ。その人達が、たまたま俺の身内だったというわけ」
それ以上話したくは無いという雰囲気を感じて、香は押し黙った。
何ともいえない微妙な雰囲気を察して、寛弥が殊更明るく話した。
「さてと・・・疲れた事だし、あたしそろそろ帰りたいんだけど・・・あなたはどうする?もう少しここにいる?」
「あ・・・あぁ・・・」
突然話を振られて、和斗は戸惑いながらも頷いた。
「冴羽さん、悪いけど家まで送ってくださる?」
寛弥の言葉に、僚が頷く。
そんなやり取りを見て、ミックがやれやれというようにため息をついた。
「それじゃぁ、シンディーは俺が送っていくか」
「それじゃぁはよけいよ!」
そう言って、シンディーはミックを睨む。
和やかに話しながら去っていく一団を見ながら、和斗は手元にあるライターをもてあそぶ。そして、一度ライターを見るとゆっくりと顔を上げて、前を歩いていた人物を呼び止めた。
「シンディー!!」
寛弥達より少し送れて歩いていたシンディーは、突然呼び止められて驚いて振り返った。
そんなシンディーに向かって、和斗が何かを投げよこした。
条件反射で、シンディーは投げられた物を受け止める。
シンディーは受け止めた物を見て、驚いて和斗の顔を見た。
そんなシンディーに、和斗は微笑むとゆっくりと口を開いた。
「やる。お前からわたしてやれ」
その言葉に、シンディーは何か言おうと口を開きかけたが、既に和斗は背を向けて歩き出していた。
「何をもらったんだい?」
ミックは助手席で大事そうに和斗から渡された物を見ているシンディーに尋ねた。
「これを貰ったのよ」
シンディーは微笑むと、ミックに手の中にある物を見せた。
「それは!?」
ミックが驚いてシンディーの顔を見る。
それは、和斗が理沙から取り上げた広人のライターだった。
「私から渡せって言われたわ」
「誰に?」
「息子に」
シンディーの言葉に、ミックは怪訝な顔をした。
シンディーの言葉がいまいち良く理解出来ていないのだ。
が、突然ミックが急ブレーキをかけた。
「ちょっとあぶないじゃない!!」
シンディーがミックに抗議する。が、ミックは呆然とシンディーの顔を見ていた。
「何よ・・・?」
今度はシンディーが怪訝そうな顔をする。
「君の息子の父親って・・・深沢広人なのか!?」
「そうよ」
あっさりと認めるシンディーに向かって、ミックは何やら口をパクパクしてパニックに陥っていた。
「その・・・君は・・・」
「あたしと広人がそういう関係だったのか?」
その言葉に、ミックがコクコクと頷く。
「ただ一度の過ち。あの子の事だって、広人が亡くなった後に分かったのよ」
「・・・よく、産む決心をしたな・・・」
「だって、あの子はあたしの子よ。広人とは関係ないもの。・・・女は弱いけど、母は強いのよ」
「そのライターを渡したっていう事は、和斗は分かっていたんだな。君の息子の父親が誰なのか・・・」
シンディーは苦笑した。
「妊娠がわかってから・・・一度日本に来たのよ。広人が育った場所を見たくてね。そこでばったり会っちゃったのよ。和斗に。ほら、五嶋さんが言ってた合言葉があったでしょ?無意識のうちにそれを期待していたのかもしれないわね・・・そこでばったり和斗と再会でしょ?もう、縋っちゃったわよ。思いっきり」
シンディーはいったん口を閉じると、ため息をついた。
「その時は・・・あたし、寛弥が大変な事になってるなんて知らなかったから・・・でも、今から思えば、彼も縋りたくてあの場所にいたのかもしれないわね・・・」
「その・・・何ていうか・・・君達の関係は、複雑なように見えて・・・意外とあっさりしてるんだね」
「どういう意味?」
「下世話な勘ぐりだけど・・・普通そこまで複雑になると、もっとどろどろとした感情を引きずってるもんじゃないのかな?」
「お互い罪は背負ってるわよ。和斗も寛弥もあたしも。それに、誰よりも寛弥の幸せを願っていたのも広人本人よ」
「そこが分からないんだよ。言葉は悪いけど・・・いわゆる、親友に彼女を寝取られたって話になるわけだろ?普通はもっと憎しみとかあるんじゃないのか?現に、和斗がアカデミーに飛ばされたのは、深沢広人との乱闘騒ぎが原因だろ?寛弥ちゃんは隠しだがっていたけど・・・原因は彼女の事だろ?」
「さぁ?下世話な噂よ。処分とは関係ないと思うわよ。それに、あの時は和斗が殴らなかったら、あたしが一発ガツンとやってたもの」
「あ・・・そう・・・」
シンディーの言葉に、ミックの顔は引きつっていた。
「ねぇ、ミック・・・本当はこんな事考えちゃいけない事なのかもしれないけど・・・ひょっとしたら・・・広人は既に和斗に復讐を果たしていたのかも知れない・・・」
「それはどう言うことだい?」
とたんに、ミックの表情が真剣になる。
「広人が暗殺しようとした要人の警護に和斗が就いたのは、広人本人の強い希望があったからなの。もし・・・もしもよ、広人が最初から自分を撃たせるためだけに和斗を推薦したのだとしたら・・・これ以上の復讐はないと思うのよ・・・」
シンディーの言葉に、ミックは黙りこんだ。
確かに、これ以上の復讐はないだろう。
その手の話は良く聞く。最低な手段だが、この世界ではそう珍しい事ではない。
「まぁ、こればっかりはな・・・今更確かめる事もできんだろう」
ミックの言葉に、シンディーは頷いた。