グランドファーザー
(中編)
「海坊主さんは?」
店に入るなり、香は見慣れた大男の姿が無い事を不思議に思い、美樹に尋ねる。
「お使い」
香の疑問に、既にカウンターに座って新聞を読んでいた和斗が答える。
「買い物に行ってくれるなんて、やさしいな〜海坊主さんは」
香の言葉に、美樹は苦笑いする。
「疲れた〜!」
叫び声と共に、ドアが開いて僚とミックが顔を出した。
「収穫はあった?」
美樹はそう言いながら、二人の為にコーヒーを用意する。
「あんた、朝から姿が見えないと思ったら、真面目に仕事してたんだ・・・」
感心したように呟く香に、僚はうんざりとした表情を浮かべる。
「違うのよ、香さん」
美樹の苦笑に、香は不思議そうな表情を浮かべる。
「暇そうにコーヒー飲んでるから、ケツ叩いてやったんだよ」
和斗の言葉に、香は引きつった笑いを浮かべる。
「それとも、お前ら今から海坊主と代わって病院に行くか?」
その言葉に、僚とミックはちぎれんばかりに首を横に振った。
「・・・海坊主さん教授の所に行ってるの?」
香の信じられないという表情を肯定するかのように美樹が頷く。
「かなりしぶってたけどね」
その時の様子を思い浮かべながら、美樹が言う。
「あれは心底、嫌がってたぞ・・・」
僚とミックがボソッと呟く。
「ミイラ取りがミイラになるのは避けたいからな。それに、海坊主が行けば、教授にもいい薬になる」
和斗の言葉に、周りは真っ青になる。絶対、敵になるのは避けたいと改めて思う一同である。
「それより、何か分かったのか?」
「分かったというか・・・分からんというか・・・」
「何よ、それ」
「どうも・・・背景が見えないんだよな・・・」
「具体的にというか、あからさまに彼女を狙っている連中もいないし・・・」
「じゃぁ、彼女の勘違いってこと?」
ミックの言葉に、香が僚に尋ねる。
「いや、そうとも限らん。今朝、妙な気配を感じたしな・・・」
僚が考えていると、それまで黙っていた和斗が口を開いた。
「要するに、お前ら今まで調べてきて何も分からなかったんだな」
顔を見合わせ黙り込んでいる二人。
ぐうの音もでないとはまさにこのことである。
「どうかされたんですか?皆さんそろって・・・」
奥から出てきた美音に美樹が微笑みかける。
「練習はもういいんですか?」
「えぇ。ありがとうございました。地下をかしていただいて助かりました」
「いえ。たいしたことしてないですよ。コーヒーでもどうですか?」
「ありがとうございます。」
美樹の勧めに美音は礼を言うと、和斗の隣に腰掛けた。
『・・・なんで、和斗の隣なんだ』
ボソッと呟くミックと僚を香が睨み付ける。
「そういえば、保科さんもヴァイオリンをおやりになるんですってね。大河内さんがおっしゃっていましたよ」
「やるといっても、素人が趣味程度のものです」
「でも、かなりいい音色だと大河内さんが自慢げに話してたんです」
その言葉に、和斗が驚いた顔をする。
「どうかなさったんですか?」
不思議そうに聞く美音に和斗が笑顔で答える。
「いえ、あまり父からそういうことを言われたことがないので、驚いているんです」
「一度、聞かせてもらいたいです」
「プロに聞かせるようなものではないですよ」
「それでもいいんです!是非!!」
必死な様子でお願いする美音を、和斗は真剣な表情で見る。
その視線に、全てを見透かされそうな気がして、美音は視線をそらした。
「素人に毛が生えた程度でよければ、今度お聞かせしますよ」
優しい声音に、美音はハッとして和斗の顔を見た。
「今は何も準備が出来てませんからね。申し訳ありませんが」
その言葉に、美音は真っ赤になって俯くと慌ててしゃべりだした。
「あ・・・あの!私こそすいません!!急に変なお願いしてしまって!!そうですよね。ヴァイオリンも無いのに、急に弾いてくださいなんて・・・」
「顔を上げてください。私こそ嬉しかったですよ。沢渡さんに聞いてみたいと言われて」
「そんな!私こそ・・・」
そう言って、美音はまた真っ赤な顔で俯むいた。
和斗と美音のいい雰囲気に、ミックと僚が面白くなさそうに見やる。
「なんで、和斗ばかり・・・」
悪態つく僚に、美樹がぽつりと呟く。
「少し前に流行ったわよね・・・人は見た目がなんとかって本」
美樹の言葉に、香もその本を思い出した。
そして、二人はあながち間違いでは無いなと思い男共を見るのだった。