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「ちょっと!!もう少し、丁寧に扱いなさいよ!!」
聞きなれた声がドアの外からだんだん近づいてくる。
部屋の中にいた女性は、はじかれたようにドアを見つめた。
すると、ドアが開いて新たに誰かが中に放り込まれた。
どうやら一人ではないようだ。
女性はそう考えながらも、聞き知った声の主に呼びかけた。
「香さん・・・?」
呼ばれた女性も、聞きなれた声にギョッとする。
「え!?その声は・・・美樹さん!!」
「あたしもいるわよ、香さん」
美樹と呼ばれた女性の隣から、別の声が聞こえた。
「かずえさん!?」
その声に反応したのは、香の隣にいた女性だった。
「え!?寛弥さん!!」
かずえ達も驚いた。
香と寛弥は顔を見合わせると、慌てて美樹達の声がした部屋の奥に駆け寄った。
『何してるの?こんな所で!!』
見事に揃った声に、か細い声が割り込んだ。
「あの・・・」
その声に、初めて美樹達は自分達の知り合いの他に、もう一人居ることを知った。
「ごめんなさい。香さんやお友達まで巻き込んでしまって・・・」
美樹が誰?というように香を見た。
その視線に気がついて、香が彼女をみんなに紹介する。
「彼女、広田あかねさんっていって、今家でガードしてるの」
その言葉に、かずえと美樹が顔を合わせて苦笑した。
「またなの?香さん」
「面目ない」
香は恥ずかしそうに、頭を掻いた。
「で、寛弥さんはそれに偶然巻き込まれたわけ?」
かずえの言葉に、寛弥は首を傾げた。
「そうでもないと思う・・・あたしの名前知ってたから・・・」
「誰か何か聞いてる?」
美樹の問いに、全員首を振る。
このメンバーが揃って狙われたとするならば、当然原因は一つしかない。
「でも、このメンバーが揃って狙われたとしたら、当然あの人達が均等に関わってるって事でしょ?そんな事件あったかしら?」
美樹の疑問に、かずえが答える。
「必ずしも、一緒とは限らないんじゃない?個別かもしれないし・・・」
「あ!」
寛弥の発した言葉に、皆が注目する。
「何時だったか忘れたけど、あったじゃない!!ミックさんの頼みで揃って仕事したことが・・・ほら、香さんと冴羽さんが酔いつぶれて家に泊まった時よ」
「あぁ!」
思い出したというように、他の3人が手を軽く叩いた。
「やっと、すっきりしたわ。ところで寛弥さん、鍵のない手錠外せる?」
美樹はそういうと、手錠で繋がれた左手を軽く上げた。
「外せるけど・・・今外しても意味なくない?」
「というより、鬱陶しいのよ。これ」
かずえの言葉に、寛弥は納得した表情を浮かべる。
二人の傍に行くと、どこからか取り出した細い針金で、ものの数秒で手錠を外した。
「FBIって、そんな事も教えてるの!?」
香の言葉に、寛弥が苦笑する。
「必然的に覚えるのよ。もっとも、あたしは教えてもらったんだけどね」
「あの・・・皆さん怖くないんですか?こんな状況なのに・・・」
あかねの遠慮がちな言葉に、4人が微笑んだ。
「信じてるから。必ず来てくれるって・・・」
香の言葉に、あかねが呟いた。
「皆さん信じてるんですね・・・冴羽さんを・・・」
その言葉に、4人は顔を見合わせる。
数秒の後、4人全員口を揃えて言った。
『・・・自分のパートナーを信頼しているの!』
そう言い切った後、香がハッとして周りに講義した。
「ちょっと!!うちの僚が、そんなに信用できないわけ?」
「ちょっと、聞いた?みんな。“うちの僚”ですって。言うようになったわよね・・・香さんも」
かずえの言葉に、美樹と寛弥が頷く。
顔を真っ赤にしてうろたえている香に苦笑して、美樹は話題を変える。
「ねぇ、誰のパートナーが一番に来るか賭けない?」
「それは、ここに着くまで?それともこの部屋に着くまで?」
「もちろん、この部屋に着くまで」
美樹の提案に、面白そうね・・・とみんなが賛成する。
「あたしはもちろん、ファルコンね」
「当然、あたしもミック。香さんは?やっぱり、冴羽さん?」
「あたしは・・・海坊主さんだと思う・・・」
香の言葉に、美樹とかずえが顔を見合わせ、ため息をついた。
「前言撤回。やっぱり、冴羽さんだと思う」
かずえのやや呆れた口調に、美樹が頷いた。
「というよりも、暴走する冴羽さんとミックを止めつつ海坊主さんが来るってパターンじゃない?」
「いいとこついてくるわね・・・寛弥さん」
かずえの感心した呟きに、美樹がやや不機嫌そうに尋ねた。
「そういう寛弥さんは誰よ」
「あたし?もちろん、和斗に決まってるじゃない」
寛弥の言葉に、香が不思議そうな顔をする。
「え・・・?和兄って・・・たしか3日前からワシントンじゃ・・・」
香の言葉を肯定するかのように、寛弥が肩を竦める。
「いまさら変えるっていっても、遅いわよ。いいのね、寛弥さん」
「もちろん♪」
「じゃぁ、負けた人は勝った人の言う事を何でも聞くってことでいい?」
美樹の言葉に、全員が頷く。
「あの・・・」
おずおずと、あかねが香達に向かって口を開く。
「どうかした?あかねさん」
香が気づいて、あかねを見た。
「皆さん、暢気にそんな会話をしてる場合じゃないのでは・・・」
「いいのよ、あかねさん。あたしたち、別にすることないんだから」
「はぁ・・・」
「そうそう。ここでおとなしく待ってればいいのよ。向こうか来てくれるんだから」
「そんなもんなんですか・・・?」
美樹とかずえの言葉に、寛弥が付け加える。
「当然でしょ?彼らがしっかりしてたら、あたしたちがここに居る事もないんだから」
「・・・・」
なんとも反応のしようがないあかねの様子を暫く見ていた香は、ある事に気がついてポンと軽く手を打った。
「そう言えば、ちゃんと紹介してなかったわね・・・」
香はそう言うと、あらためてみんなをあかねに紹介した。
「美樹さんは知ってるわよね。依頼する時に会ってるから・・・」
香の言葉に、美樹があかねに手を振る。
「えぇ。あの、大きな旦那様と喫茶店をやっているんですよね・・・」
「そう。実は、あたし達と同業者なの」
「・・・そうなんですか?」
ちょっと驚いた顔をしたあかねに微笑みつつ、香は続ける。
「こちらが、かずえさん。あたし達の向かいに住んでるの。ほら、よく家にくる外国人記者がいるでしょ?」
「あぁ、ミックさん」
あかねは、何時も僚と一緒に自分を追い掛け回しては、香に叱られている外国人を思い浮かべた。
「そう、そのミックさんの彼女なんだけれどね。彼、今は記者やってるけど元アメリカNo.1スイーパーなの」
「はぁ!?」
『まぁ・・・そうは見えないかもしれないけど・・・』
日頃のミックの様子を思い浮かべながら、香とかずえが引きつった笑みで答える。
「で、最後が寛弥さん。あたし達が良く夫婦揃ってお世話になってるんだけど・・・」
「あぁ、香さんがお兄さんのように慕っているって言ってた人・・・?」
「そう。和兄の奥さんなんだけれどね・・・」
「先程、ちらっと耳に挟みましたけど・・・元FBI捜査官だそうで・・・」
その言葉に、寛弥はにっこりと微笑む。
「たいしたことないわよ」
「いえ。十分たいしたことあると思いますけど・・・一番落ち着いてますよね・・・」
その言葉に、他のメンバーが苦笑する。
「まぁ、寛弥さんの場合は、あの和斗さんが旦那さんだからね・・・」
「そんなに凄いんですか?その方・・・」
あかねが不思議そうに香に聞いた。
香達が兄の用に慕うからには、それなりの人物なのだろうが・・・
「どうかな?一応、あたし達の世界じゃぁ伝説っていうか・・・神様って言われてる人だけど・・・」
(何か、今さらりと凄いことを言われたような・・・)
あかねは内心そう思いながら、彼女達の落ち着きはらった様子に感心するのだった。