Conduite

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その日、新宿中の情報屋に戦慄が走った。
「おい、聞いたか?例の噂」
 情報屋の一人が、仲間の一人に囁いた。
「あぁ・・・本当なのか!?」
「間違いない。奴等の子飼いの情報屋が、昼夜を問わず走り回ってるんだぜ」
「しかし、攫った奴もいい度胸してるのか、バカなのか・・・」
「大バカ以外の何者でもないだろ。この世界において、もっとも逆らってはならない連中の相棒を誘拐するなんてな・・・」
「一人だけでも恐ろしいのに、4人まとめてなんてな・・・」
 そう言いながら、御互いの顔を見やると、恐ろしそうに身体を震わした。              


「くそ!!一体どうなってるんだ!!」
 そう言って苛立たしげにテーブルを叩く僚を、海坊主が冷静な声で宥める。
「落ち着け、僚。あせってもどうにもならん」
「よく、落ち着いていられるよな!海坊主!!お前、美樹ちゃんが心配じゃないのか!!」
「誰も、心配してないなんて言ってないだろうが」
 海坊主はそう言うと、鬱陶しそうに僚の隣にいるミックを見やる。
「やっぱり、俺なんかと一緒にいるから・・・・かずえが・・・」
 落ち込んでいるミックを横目で見ながら、海坊主は内心ため息を吐く。
 よりにもよって、なんで自分がこの2人のお守りをしなければならないのか。
 海坊主は自分の不運さを呪った。
 ふと、ある事を思い出して、海坊主が僚に尋ねる。
「そう言えば・・・お前達、どっちが和斗に連絡するんだ?何時までも黙ってるわけにはいかないだろ?」
 その言葉に、ミックはおろか僚までが暗い影を落とした。
「そうだよな・・・何時までも黙っているわけにはいかないよな・・・」
「よりにもよって、何でこんな時に日本に居ないんだ!和斗は!!」
「・・・俺達だけで何とかして、口裏合わせて黙っとくって言うのは・・・?」
 僚の提案に、海坊主が呆れた顔をした。
「・・・何とかなると思うのか・・・」
「だよな・・・未だに捉えられている場所すら分からないのに・・・」
「ミック・・・お前どっちの味方だよ・・・」
「だって、俺は関係ないもん!!和斗から寛弥ちゃんの事をくれぐれもよろしく頼むって、言われたのはお前だろ?僚」
 ミックはくれぐれもという箇所を強めに発音すると、実に楽しげな表情を浮かべた。
 とたんに、取っ組み合いの喧嘩を始めようとした二人を、海坊主が引離す。
「幼稚園児か!お前らは!!」
 その時、キャッツ・アイの電話が鳴った。
 弾かれた様に電話を見る3人を代表して、海坊主が電話に出る。
 2,3言、言葉を交わして電話を切ったとたん、海坊主はギョッとして身を引いた。
「誰からだったんだ、電話!!」
 何時の間に傍に近づいて来たのか、揃って尋ねる僚とミックに、海坊主が答える。
「和斗の相棒の周防からだ。向こうも独自に調べてみるとさ」
 その言葉に、僚の顔色が変わる。
「これで、お前の末路は決まったな」
 嬉しそうににやりと笑うミックに、僚がヘッドロックをかける。
 最早怒る気力も失せたのか、海坊主は2人の様子を黙って見ていた。