嘘
「お願い・・・僚には黙ってて」
「しかし・・・」
必死になって頼み込む女性の姿に、男が顔をしかめる。
部屋の中には重い空気が立ち込めている。
「頃合を見計らって、あたしから言うから・・・」
「だがな、香・・・」
口を開いた男に、香がとりすがる。
「本当に少しだけでいいの!お願い和兄!!」
その様子に、和斗はため息をついた。
「どうせ、すぐにバレるぞ」
「だから、和兄に頼んでるんじゃない!」
「僚には何ていうんだ?」
和斗の問いに、香が苦しげに眉を寄せた。
「無かったって言うわ」
「嘘をつくのか?」
その言葉に、香がこくりと頷いた。
意思の強い目。
こうなったらもうどうしようもない。何を言っても無駄である。
「好きにしろ」
和斗は諦めると、香にそう告げた。
「頼みたい事があるんだ」
本日2度目の台詞に、和斗は盛大なため息をついた。
「あからさまに、嫌そうな顔するなよ!」
「悪い。つい本心が出た」
和斗はさらりとそう言うと、男を部屋に招きいれた。
男も、和斗のそういう態度に慣れているのだろう。さして文句も言わずに部屋の中に足を踏み入れる。
「・・・香が来てたのか?」
微かな残り香を感じたのか、見えない何かなのか。男が自分のパートナーの名を口にした。
「あぁ・・・貸してた本を返しに来たんだ。で、頼みたい事って?」
和斗の言葉に、男が手に持っていた物をテーブルに置いた。
「これを預かって欲しいんだ」
男が置いた白い小さな箱を、和斗がしばし呆然として見ていた。
「・・・本気でこれを預かれってか?僚・・・」
和斗の言葉に、僚が手を合わせて頼み込んだ。
「頼む!これが見つかったら、絶対香に殺される!!そう、思うだろ!?」
僚の言葉にというより、気迫に押されてつい頷いてしまう。
「頼む!この事は香には・・・」
「・・・言えるわけないだろうが・・・」
「サンキュ!恩にきる!!」
僚は和斗の手を両手で握りこむと、感謝した。
(さて、どうしたものか・・・)
僚が帰った後、和斗は預かった白い箱をしばし眺めていた。
箱の中身は見なくても分かる。
和斗はため息をつくと、箱から中身を取り出した。
「どうしたの?これ・・・」
仕事から帰ってきた寛弥が、冷蔵庫の中身を見て尋ねた。
「お互いが嘘をつき通してまで守り抜いた品」
わけの分からない言葉に、寛弥があっけにとられて和斗の顔を見る。
そんな説明では、神様でも全てを理解するのは至難である。
和斗は今日の出来事をざっと寛弥に説明した。
「じゃぁ、何?あの二人、こんな物のために今日一日お互いに嘘をつき通してるの?」
「こんな物って言い方はないだろ?本人達は真剣なんだから」
「でも・・・」
「まぁ、お前の気持ちも分かるさ。俺もそう思うんだから」
そう言って、二人は冷蔵庫を見る。
「あ!何か、凄く嫌な考えが浮かんだわ・・・あの二人、まさか家に来る時間まで同じなんて事ないでしょうね・・・」
「・・・嫌な事考えつくなよ」
和斗は寛弥の言葉に、嫌そうな顔をした。
「今日はもう、出かけないわよね」
寛弥の懇願めいた口調に、和斗が本日何度目かのため息をつく。
「そんな想像されたら、出かけられるわけがないだろうが」
「・・・とりあえず、あなたのお気に入りのバカラのグラスは奥の部屋にしまっとく?」
「お前のお気に入りのマイセンのティーカップもしまっといた方がいいんじゃないか?」
それもそうね・・・というように頷くと、寛弥は手際よく壊れ物を片付け始めた。
(何であんな物のために、ここまでしなければならないのかしら?)
二人共通の思いで顔を見合わせた。
そして、同時に盛大なため息をつく。
冷蔵庫の中で、我が物顔で並んでいる二つのショートケーキを思いながら。
言い訳:慶さんからのリクエスト「嘘」
今回はかわいい嘘にしてみました♪
しかし、この二人・・・ケーキ一つにも嘘をつくのね・・・
よほどおいしいのだろうか。