MEMORY
「皆さん、子供の頃ってどんな子でした?」
かすみの屈託のない言葉に、キャッツに集まっていた常連メンバーは首を傾げた。
「どうって・・・普通の子供だったと思うわよ?ごく平凡な・・・」
暫し考えた後、皆を代表して美樹が答えた。
「え〜!美樹さん達はともかくとして、冴羽さん達から平凡なって言うイメージは無いですよ!!」
その言葉に、僚達は苦笑するより他になかった。
悪気の無い言葉に、どう反応を返していいか困っているのだ。
まして、僚などはおいそれと人に語るような話など無いのだ。
みかねた美樹が、助け舟を出す。
「かすみちゃん、今日は約束があるって言ってなかった?いいの?時間」
美樹の言葉に、かすみは壁に掛けてある時計を見る。
「あ〜〜!!」
かなりやばいのだろう。かすみは叫び声を上げると、先程の質問など無かったかのように、慌てて挨拶すると店を後にした。
そんなかすみの姿を見て、海坊主が呟いた。
「美樹、またやっただろ・・・」
その言葉に、美樹が微笑んだ。
一瞬の隙をついて、美樹がかすみに暗示をかけたのだった。
「・・・かすみちゃんの突飛な考えも毎回すごいわよね・・・」
キャッツの帰り道、香は隣を歩いている寛弥に話かけた。
「・・・この間はあれよね・・・確か、かすみちゃんが考案した鍵付きの金庫を誰が一番早く開けられるかだったわよね・・・」
「あぁ・・・あたしは傍観者だったけど」
「まぁ、あれはあれで毎回楽しいけどね」
寛弥はそう言って微笑んだ。
「ねぇ、僚」
香はふと思い出したという感じで、後方を歩いていた僚を振り返った。
「夕飯、何が食べたい?」
僚がその質問に答えるより早く、寛弥が口を開いた。
「じゃぁ、久しぶりに4人で食べない?ね、いいでしょ?」
嬉しそうに手を叩いて僚の隣を歩いている和斗に聞く。
その様子に和斗は肩を竦める。
好きにしろという事なのだろう。
香も寛弥の提案を受けていいか目で僚に訴える。
特に断る理由もないので、僚も肩を竦めてその提案に同意する。
僚の承諾を見た和斗は、微かにため息を吐いた。
「何だよ?」
そんな和斗の様子に、僚は不思議そうな顔をした。
「覚悟しといた方がいいぞ」
和斗の言葉に、僚は怪訝そうな表情をする。
「かすみちゃんのさっきの質問、続くぞ」
その言葉にぎょっとして、前を歩いている二人を見た。
「あいつがああいう提案をする時は何か企んでいる時だからな」
僚の表情には引きつった笑みが浮かんでいた。
「ねぇ、僚の子供時代ってどんなだった?」
夕食後の団欒に発せられた香の質問に、僚はそらきたと身構えた。
「んな、話すような事なんて何もないぞ」
保科家のリビングのソファーにふんぞり返ってコーヒーを飲んでいた僚が微かに眉根を寄せた。
僚の頑なな主張により保科家で晩餐となったのだが、当初の狙いを和斗に見事に阻止されたために面白くないのである。
「昔って幾つぐらい?」
和斗の言葉に香が考え込む。
「ん〜別に何時でもいいんだけど・・・そういえば、和兄と僚って何時出会ったの?」
「何時だっけ?」
香の言葉に、僚が和斗を見た。何せ僚には時間感覚がないので、そういう事は和斗に聞くにかぎるのだ。
「・・・」
その問いかけに和斗が記憶をたどる。
「14?15?そんくらいじゃなかったか?」
「あ〜そんなくらいだっけ?」
「そもそも、何で出会ったの?」
寛弥のもっともな問いに、和斗と僚がなんとも言えない表情を浮かべた。
そんな二人に、女性達も顔を見合わせる。
「俺が親父に言われてお前達の部隊に世話になったんだよな?教授のツテで」
「そうだったな。・・・1年くらいだっけ?」
「確かそんなもんだった。戦場を経験してこいって事だったからな・・・」
懐かしむような目の光を湛えながら、和斗が言った。
「最初の印象はどうだったの?」
寛弥の問いかけに、僚と和斗は視線を合わせた。
「・・・最悪だったよな・・・?」
確認するかのように、僚が和斗に問いかける。
「全くだ。なんせ、お前の第一声が『こんなガキに何が出来る!!』だったからな」
その言葉に、香が吹き出した。
「なにそれ?自分だってたいして歳違わないじゃない!?」
「うるせぇ!俺はこいつよりも長く戦場にいたんだ!!そう思うのは当然だろうが!?」
その言葉に、寛弥が不思議そうな顔をする。
「え・・・?でも、和斗って昔から戦場を渡り歩いてたって・・・」
「初対面でそこまでわかるか!?」
「お前の親父は察したぞ」
ボソッと呟いた和斗を、僚が睨みつける。
「てめぇは、その後俺を足蹴にして泥水の中にぶち込んだじゃねぇか!!」
「・・・なるほど・・・家の人はその頃から冴羽さんを足蹴にしてたのね・・・」
しみじみと呟く寛弥をうんざりとした顔で僚が見る。
「少しは止めてくれない?」
その言葉に、寛弥は無理と言わんばかりに肩を竦める。
「で、何時から僚は和兄を兄貴って思うようになったの?」
わくわくと言うより、聞きたくてうずうずしているといった感じの香に、和斗が苦笑する。
「確か、お前がミスって敵に捕まったのを助けた時だったよな?」
「あぁそうだよ!」
思い出したくもないと言う口調で僚が叫ぶ。
「てめぇは、俺が敵に銃向けられてる時に、呑気にこう言いやがったんだぞ!『兄貴って呼んだら助けてやる』って!!」
和斗はニヤニヤしながら言った。
「あれは今でも鮮明に覚えてるぞ〜。お前が必死に泣きながら俺の事を兄貴って呼んだのを」
「泣いてねぇ!!」
「い〜や、泣いたね。なんなら、教授に証言を求めようか?」
その言葉に分が悪くなった僚は、話の転換を試みた。
「香は、何時出会ったんだよ?こいつと」
「あたし!?」
いきなり話しを振られて、香は驚いた表情を浮かべた。
「ん〜そう言われても・・・でも、遊園地とか連れてってもらった記憶とかあるから・・・小学生くらいじゃないかな・・・和兄と一緒の写真ってほとんど無いから自信ないけど・・・」
「・・・お前、俺とは扱いが全然違うじゃねぇか!」
「・・・俺も人間だからな・・・」
ポツリと呟いた和斗に、僚が殴りかかろうとする。
それを笑いながら和斗がかわす。
「でも、香さん結構頑固だって聞いたわよ」
寛弥のからかい口調に、香が懐かしそうに微笑んだ。
「昔、兄貴がよく言ってたんだけど・・・あまり覚えてないのよね・・・そんなに酷かった?」
香が和斗に訪ねる。
「俺が槇村の家に行くと、よく喧嘩してたよな・・・あの頃の香って好き嫌いが激しかったから」
「うそ!そんな覚えないわよ!!」
わめきながら、和斗の口を押さえようとする香を、僚が後ろから押さえ込む。
「他には?」
余程自分の恥ずかしい過去をバラされたのが悔しかったのか、僚が面白そうに和斗に聞いた。
「他はそうだな・・・どっかつれてけ〜て暴れた事とか?」
「う〜そ〜!!絶対そんな事言ってな〜い〜!!」
「まぁ、子供にはよくある光景だよ」
可笑しそうに笑って言う和斗に、香が真っ赤な顔をして反論した。
「じゃぁ、和兄はどうなのよ!」
「俺?俺は普通の子供だったよ?」
そう答えた瞬間、全員がつっこんだ。
『絶対嘘だ!!』
「・・・それはどういう意味かな?」
和斗は悲しそうな表情を浮かべる。
「そんな顔してもダメよ。あなたの事を良く知っている人なら誰も信じないわよ」
「酷いな〜。ほんとに普通だったんだって。いたずらとかしてたりさ」
「そこが信じられないのよね・・・」
寛弥の言葉に、和斗が不思議そうな顔をする。
「あなたって、行動するよりも影で暗躍するタイプじゃない?」
「暗躍って・・・一体どういう認識してるわけ?」
和斗は引きつった笑みを浮かべて、寛弥に聞く。
「結構的を射た意見だと思うぞ」
僚の言葉に香が頷く。
そんな様子を見て、和斗がしぶしぶ認める。
「まぁ確かに行動部隊よりも、作戦練ってる回数の方が多かったけどね・・・」
ほらみろと言わんばかりの周りの表情を見ながら、和斗は嫌そうな表情を浮かべた。
「君達とは、あとでゆっくりと語り合わなければいけないみたいだね・・・」
その言葉に、彼らの背に汗が伝ったことは言うまでもない。
その後、彼らがどういう目にあったのかは神のみぞ知る。