占い

 ふと、リビングのテーブルに置きっぱなしになっている雑誌に目が止まった。
 開かれているページに何気なく視線が行く。
 思い起こせば、これが全ての始まりだったのかもしれない。
 今月の運勢と書かれている内容を何となく気になって目を通してしまったのだ。
「何々・・・今月のおひつじ座の運勢は・・・ゲ!!」
 僚は記事を読み進めていくうちに、嫌な顔になった。
 おひつじ座の運勢――――
 自分の意見に固執し過ぎて、周囲とトラブルあり。意地をはると大切なものを失うかも。しかし、これを乗り切れば、幸せがあなたに訪れるでしょう。
「何か訳の分からん文句だな・・・」
 僚は対して興味なさそうに雑誌を放り投げると、何時ものナンパに向かった。

「ついてね〜なぁ〜、今日は一人も成功しないでやんの」
 キャッツ・アイに来るなり愚痴をこぼす男に、この店のマスターは呆れた顔で言った。
「今日は?お前の場合は何時もだろ?僚」
「うるせぇ!海坊主!!」
 怒鳴る僚に、海坊主の妻である美樹がやや強めの口調で言う。
「冴羽さん、香さんにすまないとは思わないの!?」
「何で俺が香の奴にすまないと思わなきゃならないわけ?俺の方が感謝して欲しいくらいだよ」
 僚の言葉に美樹が抗議しかけた時、入り口のドアがあいた。
「何であたしがあんたに感謝しなきゃならないのよ!!」
「そりゃ〜暴力女の面倒を見てるからだろ?」
「誰が暴力女よ!!」
 そう言って、ぬっとハンマーを取り出した香を指差しながら叫んだ。
「それが暴力といわず、なんと言うか!!」
 その言葉に、香の動きが止まる。
「あんたが、ナンパをやめればいいんでしょうが!!」
「日頃、暴力女にしいたげられているんだ。心のオアシスを求めて何が悪い!!」
 僚の発言に、美樹が怒鳴った。
「冴羽さん!!何て事を言うの!!」
「いいのよ、美樹さん。こいつはこう言う奴なのよ」
「香さん!?」
 美樹がギョッとした顔で、香を見た。
 香にしては、やけにあっさりと引き下がっている。
 いつもなら、ここでハンマーが降りるはずである。
 だが、香は黙って微笑むと店を後にしてしまった。
 
何も言わずに店を後にした香を心配そうに見ながら、美樹は僚に怒りを露にした。
「冴羽さん!!今の言い方はあんまりよ!!香さんに愛想をつかされてもいいの!?」
 美樹の心配をよそに、僚はへらへらと笑って答えた。
「心配ないって、美樹ちゃん。どうせ飯時になったら帰ってくるさ」
「そんな事言っていいのか?僚。香の様子、普段とは違ってたぞ」
 海坊主の言葉に、僚はゲラゲラと笑い出した。
「何時もと変わんなかったぞ、あいつ。・・・さて、ナンパの続きでもしてこよ〜っと」
「・・・幸せなやつめ・・・後で泣きついてもしらんぞ」
そう言って店を後にする僚の背中に、海坊主が嫌みったらしくポツリと呟いた。
 

「なぁ・・・香の居場所知らないか?」
 飯時になっても帰って来ない香を心配して、僚は唯一香が身を寄せる場所の主に向かって訪ねた。
「・・・・」
「聞いてるのか?和斗」
 僚の言葉に、和斗は目の前に居る男に済まなさそうに謝った。
「悪いね」
 その言葉に、目の前の男が不思議そうな顔をした。
「いえ、あっしは全然構わないんですが・・・先生こそ診察しにくくないです?」
 そう言って、男は和斗の背中にへばりついている僚を指差して聞いた。
「誰なんです?その・・・こなきじじいもどきの男は・・・」
 うんざりした顔で、和斗が答える。
「妹の性質の悪い男」
「性質が悪いとは何だ!!性質が悪いとは!?」
「んじゃ、寄生してるゴキブリ」
 容赦のない和斗の言葉に、聞いた男の方が顔を引きつらせた。
 一体どれだけの事をしたら、こうも酷い言われようをされるのだろうか。
「お前、まさか隠してるなんて事はないよな!」
 僚の言葉に、和斗はため息をついて答えた。
「今日は一度も家には帰ってないんだ。香が居るかどうかなんて知りようがないだろうが」
「い〜や、わからんな。お前には、前科がある。過去に何度その手で騙された事か」
 僚の言葉に、和斗がボソッと呟いた。
「前科って・・・お前達が一方的に押しかけて来てるだけだろうが・・・」
「何か行ったか?」
「別に。そんなに気になるんなら、今から調べに行けばいいだろうが」
 和斗の言葉に、僚はそうかと言うように手を打った。
「んじゃ、お言葉に甘えて」
 僚はそう言うと、脱兎のごとくその場を後にした。
「・・・苦労してますね・・・先生も・・・」
 患者である男は、僚が過ぎ去った方向に視線を向けて言った。


「寛弥ちゃん、香来てる!」
 僚はチャイムを押すと同時に、出てきた女性に向かって聞いた。
「来てるけど・・・」
 彼女の言葉を聞き終えないうちに、僚は見慣れた靴を見つけると家の中に足を踏み入れた。
「ちょ・・・冴羽さん!?」
 慌てて、寛弥も僚の後を追う。
「どしたの?僚・・・」
 突然姿を現した同居人を、香は不思議そうな顔をして見ている。
「どうしたのって・・・お前が飯時になっても帰らないから心配して探しに来たんだろうが・・・」
 僚は香の態度を不思議に思いながらも、そう答えた。
「心配って・・・何で?」
 訳が分からないといった表情を浮かべる香に、僚は苛立ちを隠し切れなかった。
 こんなにも自分が心配していたのに、当の本人は理解していないのだ。
「何かあったんじゃないかって、思うだろうが!!」
 僚が大声で怒鳴ると、香は尚も不思議そうな顔をしていた。
「だから、どうして僚が心配するの?」
 その言葉に、初めて香の様子がおかしい事に二人が気づいた。
「香・・・?」
 訝しげに僚が名前を呼ぶ。
「嫌々面倒見てる暴力女なんか、居なくなった方がいいんじゃないの!?」
 その言葉に、寛弥がギョッとして僚の顔を見た。
「冴羽さん!!そんな事言ったの!?」
「いや、その・・・」
 寛弥の剣幕に押されて、僚はしどろもどろに答える。
 事実なのだから答え様がない。
 しかし、それよりも思いのほか香が傷ついている事が僚にはショックだった。
 このまま、香が自分の所から去っていくのではないかという恐怖がとたんに僚を支配する。
「香さん。冴羽さんの酷い言葉なんていつもの事じゃない。そんなに気にすることないわよ」
 寛弥の言葉に、僚の顔が引きつる。
 さらりと酷い事を言われたのは気のせいだろうか。
「・・・それとも・・・誰かに何か言われた?」
 ハッとした表情で、僚と香が寛弥を見た。
 前者はまさかという思いで、後者は何でという思いだ。
「・・・誰に、何を言われたんだ?」
 僚の恐いくらい怒りが篭った口調に、香が怯えた表情を浮かべた。
「冴羽さん!!」
 香の様子に気が付いて、寛弥が窘める。
「ねぇ、香さん・・・誰に言われたの?」
 寛弥が優しく香に問い掛ける。
「・・・覚えてない・・・」
 明らかに嘘を吐く香に、僚と寛弥はため息を吐いた。
『・・・和斗に聞けば、そのへんの事は分かるか・・・ 』
 本人が居たら、おい!とツッコミそうな言葉を二人同時に言う。
「しかし・・・誰が、俺の香に・・・」
「冴羽さん!?」
「僚!?」
 僚の発言に、香と寛弥がギョッとした顔をする。
「何だよ・・・」
 僚は、訳が分からないといった表情を浮かべる。
『・・・今・・・何て言ったの・・・』
 女性二人の発言に、僚は戸惑いながらも先程の言葉をもう一度口にする。
「だから・・・俺の香・・・」
 とたんに、自分が何を言ったのか理解して、僚は慌てて口を閉じた。
「俺・の・香・ねぇ〜」
 寛弥は、一字一句区切ってはっきりと言うと僚をからかった。
「頼むから、誰にも言わないでくれる・・・?」
 恐る恐る、僚は寛弥に訪ねる。
「さぁ・・・どうしようかしら?」
 寛弥は小首を傾げると考えこんだ。
「それよりも、そっちをどうにかしたら?」
 寛弥はそう言って、香の方を指差す。
 僚が視線をそちらに向けると、香は呆然自失状態で固まっていた。
 どうしていいか分からず、僚はがしがしと頭を掻く。
 今更発言を取り消したら、それこそ周りに何を言われるか・・・というよりも、この夫婦に何をされるかといったところだろうか・・・。
 見かねた寛弥が、強引に僚の背中を押した。
 勢いついて香にぶつかるのを避けるためというか、この場をどうにかするために、僚は香を抱きしめた。
 最初は戸惑って硬直していた香の腕が僚の背中に回される。
 その様子を見届けて、寛弥は傍にあった雑誌を手に取るとそっとその場を後にした。


「何してるんだ?そんな所で・・・」
 玄関に入るなり、壁にもたれ掛かって雑誌を読んでいる寛弥の姿を見て、和斗は不思議そうな顔をした。 
「おかえりなさい」
 寛弥は雑誌から視線を和斗に向けると、微笑んだ。
「当分キッチンには入れないから」
「何で?」
「ん〜入ると、灼熱の炎に焼かれて燃え尽きるわよ」
 寛弥の訳が分からない説明に、和斗が視線を玄関の靴に向ける。
 見慣れた靴が2足――――――
 とたんに、和斗はガックリと肩を落としてその場に崩れ落ちた。
 やっと、寛弥の言葉を理解したのだ。
「・・・なぁ、俺は何時になったら飯にありつけるんだ・・・?」
 和斗の問いかけに、寛弥は肩を竦めた。 
 そんな事は、こちらが聞きたい事である。
 寛弥は視線を雑誌に戻すと、ポツリと呟いた。
「この雑誌の星占い・・・よく当たるわね・・・来月、買おうかしら・・・」
 香が面白いからと持ってきた雑誌のタイトルを確かめる。

 今月のやぎ座の運勢――――
 何事にも邪魔が入り、予定が成り立たない状態が続くでしょう。
 こういう時は休暇と考えて、のんびりと過ごしましょう。今が試練の時です。辛抱強く頑張りましょう。


(本当に当たってるわ・・・)
 寛弥は目の前でガックリとしている和斗の姿を盗み見て、そう思った。
 その視線に気が付いて、和斗が訝しげな視線を向ける。
 寛弥の差し出した占いのページを見ると、とたんに不機嫌な顔になる。
「・・・今が試練の時っていうのが、凄く当たってない?」
 和斗が突っ返した雑誌を受取りながら、寛弥が面白そうに言う。
 が、直ぐに二人同時にため息を吐くとリビングのドアに視線を向ける。
『どうでもいいけど・・・あの二人、ここが他人の家だって分かってるかな・・・』
 夫婦揃った呟きが、静まり返った玄関に響いた。


言い訳:お題占い・・・
     後半というより、一体何が書きたかったんだろうか・・・
     たぶん、僚は香が一番なんだよ!!うん。
     という事が書きたかったのかも・・・